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_ _...-一' ` ≦ュ、 / ヘ \ _/ ヘ | ヽ // _........_ / | ヘ. // _ ;rヘ  ̄ ヽ! ヘ、 |;ム.z ´ \ / ハ ヘ l\_ | ヘ| | l | | | | | | \-ゝ-、 | | | | | j 」 | | | | | | ヾ ヘー-.、_ | | | | | ̄ 」_」」...A-‐z ! ;へ ヘ | ノ__`) | | | ト ;V } | 「| 「| | / / `ヽ |__/‐ ´ ヾハ !V _」彡 〈 ¨´ (⌒)'| //´ ∧} { i^ ヽ弋ヽ (⌒) __ , ;r ´ ̄`ヽ / ヾー--{ヽヽ `‐、----≦-‐7 /-、|__,、__.ノ `゙ ` ゙゙̄''' '´ 出典 涼宮ハルヒの憂鬱 魔法少女リリカルなのはシリーズ テンプレート・特徴・性格 ヤンデレの伝道師、ヤンデレを愛しヤンデレと共に生きる。 しかし当人は意外と純情派。 色々紆余曲折あった後、フェイト・テスタロッサの使い魔アルフとしてのウェイトが 大きくなり報われなくてもフェイトラブを貫く現状。 長門有希とは仕事仲間としての認識で意外と和気藹々で世話焼きをする。 関係者 フェイト・テスタロッサ? 長門有希? 伏線 名前 コメント
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長編 短編 18禁作品
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西暦2003年、世界は、宇宙は激変した。 突如発生した大規模な時空振動が空間を支配し、時を切り裂く次元断層を生み出した。 次元断層は瞬く間に、太陽系第三惑星 地球 を覆い尽し、飲み込んだ。 世界は、人々は、あらゆる生態系は時の因果を、過去という時の束縛を、それは遮断した。 そして、来たるべき世界は幾枝にも別れあらゆる時間軸を形成し、本来あるべき姿とは全く異なる世 界に成り果てる。 この大規模な時空振動は、弓状列島 日本 の一画にて発生した。 その中心地点に居たのは一人の少女。何処にでも居る普通の少女だった。 少女は、絶望していた。自分の存在のちっぽけさに。 それは、些末な悩みかも知れない。だが、少女は懊惱してしまった。 コンナ世界ハイラナイ。 喪失感に苛まれ、少女は懇願した。 そして、彼女は唐突に、理解する事もなく、人知を越えた力を手に入れた。 後に言う、第一次情報爆発が、少女は知らぬ内に世界を変質させてしまった。 名は 涼宮ハルヒ 。神の力を手に入れた少女である。 * 業火に焼かれたかの如く赤に染まる景色を、自身の暮らす分譲マンションのベランダから眺めながら 嘆息を漏らした少女がいた。 「何故、私という存在は在るのだろう……」 そう呟いた少女、朝倉涼子は人間では無い。 情報統合思念体により涼宮ハルヒ観察の為、太陽系第三惑星地球に潜伏する為に人間を精密に模して 造られた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースなのである。 朝倉涼子は、涼宮ハルヒの通学する事になった県立北高校に潜伏して、早一月が経つ。 涼宮ハルヒに接触しその動向を測る、というバックアップ要員の中でも特に重要な配置を与えられた にも関わらず、全く功績を残せない事に焦燥感に身を焼かれる想いでいた。 観察が目的ならば、長門有希の様に感情の機微を表現するプログラムは必要なないはず。 だが、私は誰よりも精密に構築され、人間に最も近い状態で造られた。 それに意味はあるのだろうか?否、意味等求めても仕方ないだろう。 私は、それだけの為に造られたのだから。 『SOS団』 五月のGW明けの登校日、涼子は皆に分け隔てなく接していた。 例外は無く、無論観察対象である涼宮ハルヒに対してそれとなく近付き声を掛けた。 「おはよう、涼宮さん」 「……」 しかし、肝心の観察対象が全く何の反応も示さない。 この一連の行動はクラス委員という立場からでは無く、涼宮ハルヒに対して自然に接する形を取れる という処置の一環でもあったのだが、まるで朝倉涼子という存在が存在していないかの様に視界にも入 れず、腕を組み忌々しげに顔を顰めさせているという一点張りだった。 どうしたものか、と思索を練るが、彼女の興味を引く物、すなわち宇宙人、未来人、異世界人、超能 力者などという現実世界に於いて 有り得ない という認識が常の空想ばかりだった。 現に自分は宇宙人という部類に属するのかもしれないが、と内心苦笑する。 他の勢力が涼宮ハルヒの動向を探る為、エージェントを放っているのは此方で既に調査済みである。 その中に、未来人あり、超能力者あり、各国のエージェントも付近に潜伏しているだろう。 いわば、彼女の望んだ物が既に一同一様に集っている訳なのだ。 だが、それを彼女が知ることにより、世界の調和が崩壊し兼ねない状況である事には変わりない。 放置するのも然り、状況が悪化すれば情報統合思念体が渇望する 自律進化の可能性 が喪失する可能 性も懸念されてはいるが、是正すれば解決する。 「どうした?朝倉、神妙な顔をして」 少し遅れて来た、彼女の前に座席を宛がわれた珍妙な綽名の少年、キョンは訝る様に涼子を見つめて いた。 「え?ああ、何でもないわよ。それより、おはようキョン君」 やんわりとした物腰で対応し、しかし、微笑んだ口端は僅かに歪んでいた。 そんな表情一つの変化の機微に微妙な違和感を覚えつつも、キョンは首を傾げ呟いた。 「……?まあいいけどさ」 それだけ言うと席に着き、寝不足のせいか腫れぼったい瞼を擦りながら欠伸をする。 そんなキョンに一瞥し、涼子も又、自分の席に着いた。 表情は穏やかではあったが、内心は焦りの色で満ちていた。 * 何故、この世はこうも不条理なのだ。とキョンは述懐する。 何故、その様な思いに至ったのか……、入学早々素っ頓狂な自己紹介をした涼宮ハルヒが起因している。 クラスメイトの谷口曰く、「あいつは根っからの変人だ、やめとけやめとけ」という、特に有りがたみのない忠 告を頂いたのだが、間が差したのだろう。キョンは涼宮ハルヒに話し掛けていたのだ。 最初は朝のHRが始まるまでの短い間に始まり、今では授業間の休憩時間にも会話をする様になっていた。 日が替わる事に髪を結ぶ箇所が増えて行く事を見事言い当てたりもした。 その後、指摘された事に何らかの感慨があったのだろう。腰まで伸びた艶な黒髪が、肩口の上まで切ら れていたのには驚いた。 そして、クラス委員である朝倉涼子に 唯一、涼宮ハルヒと会話が出来る人物 と見込まれ、必要事項を 伝える橋渡役にされたり、朝倉涼子と接触する大義名分を得た事に谷口から妬みの言葉を貰ったりもした。 そして、今日。ようやく涼宮ハルヒという呪縛から解放されるはずだった。 六時限目に行われたHRにて、クラス内での交友関係を深めるという名目の元、席替えが行われたのだ。 出席番号順でくじを引いて行くという提案の元、キョンは見事に窓側の最後尾から二番目、という中々 の好ポジションをゲットしたのだ。 しかし、いざ席を移してみれば……、キョンはがくりとうなだれる様に机に突っ伏し席替えを提案した 担任の岡部教諭に対して呪詛を紡ぎたくなるが、しかし、何とか寸での所で踏みとどまった。 * 「何でまたあんたが前な訳?」 理不尽極まりない言葉と共に、大いに侮蔑を孕んだ視線が刺さる。 「俺に聞くなよ。それに、好きでなった訳じゃないさ」 涼宮ハルヒに相対するキョンは眉間に皺を寄せ、心底げんなりする。 涼宮はふん、と鼻を鳴らし傲岸不遜に腕を組み胸を反り、一言。 「まっ、どうでもいいけど」 危うく心を挫かれそうになったキョンは、しかし、何とか踏み止まる。 そして、気が付けば口を開いていた。 「そう言えば、全部の部活に仮入部したって……、あれ、本当か?」 そんな事を言っていた。 口を引き結び、眉間に皺を寄せ、精緻に整った美貌を歪ませていたハルヒは、肩に掛った髪を払いあげ 再び腕を組み、平坦な声で答えた。 「そうよ」 余りに淡白な答えに、呆気に取られ唖然と見詰めていると。 「全然、駄目ね。運動部も文化部も至って普通。これだけあれば一つくらいは変な部活があってもよさそ うなものなのに」 憤慨を口端に浮かべながら、更に。 「大体ね、独創性がないのよ。決められたルールに従って、行動しているだけじゃない。」 「何を持ってその基準とするのか、まずそれを教えてくれ」 そんなの簡単よ、と無表情のまま、 「あたしが気に入る部活は変、それ以外は全然普通。分かった?」 「そうかい、初めて知ったよ」 「ふん」 そっぽを向いた涼宮。それ以降、会話も続かず本日の会話は終了した。 また別の日には、 「ちょっと小耳に挟んだんだが」 「どうせロクでもない事でしょ」 「付き合った男を全部振ったって本当なのか?」 ハルヒは鬱陶しそうに顔を顰め、吐き出す語気は強くなる。 「何であんたにそんな事を言わなきゃいけないのよ」 ギロリ、と黒い双眸で的を射抜く様に睨みつける。 キョンは交わる視線を外さず、ぐっと堪えた。 「で?誰から聞いたの?まぁどうせ谷口辺りから聞いたんだと思うけど。 高校に来てまで、あのアホと同じクラスなんて最悪よね」 「そうかい、本人が聞いたら悲しむだろうよ」 「別にあのアホがどうなろうが知った事じゃないわ。それに、何を聞いたか知らないけど、まぁいいわ、 全部本当だから」 「一人くらいまともに付き合おうとか思わなかったのか?」 「全然ダメ」 どうやら、口癖は全然の様だ。キョンは一人納得に頷く。 「どいつもこいつもアホらしいほどにまともだったわ。日曜日に駅前で待ち合わせて、マニュアル通り のデートコース、ファストフード店で食事して、余した時間を喫茶店で潰して、また明日ねってそれし かないわけ?」 生誕来、異性と付き合ったり、デートを経験などした事ないキョンにしては、それのどこがいけない のか。他に妙案が思い付く訳でもなく、取り敢えず聞き手に徹していた。 ハルヒは己の過去が余程恨めしいのか、苦虫を噛み締めたように顔を歪ませ、 「あと告白が殆ど電話だったのは何なの、あれ。そういう大事な事は面と向かって言いなさいよ!」 確かに、とそれには同意出来ると思ったキョンは、「そうだな」と相槌を打つ。 「そんな事はどうでもいいのよ!」 どっちなんだよ。呆気に取られる。 「問題はくだらない男しかこの世に存在しないのかどうなのかって事よ。ホント、中学時代はイライラ しっぱなしだったわ」 今もだろうが、と心の中で突っ込みを入れておく。 「じゃぁ、どんな男ならよかったんだ?やっぱりあれか?宇宙人とか──未来人とかなのか?」 「そうね、宇宙人もしくはそれに準ずる何かね。とにかくも、普通の人間でなければ男だろうが、女だ ろうが、そっちのほうが面白いじゃない!」 ハルヒは言い終えると、爛々と、いや、ギラギラと双眸を輝かせていた。 (何故、そこまで人外に拘るんだろうか。確かにそこには共感は出来そうだが) 「だからよ!」 ハルヒは椅子を蹴倒し、机に身を乗り出して叫んだ。 クラスメイトはハルヒの声に驚き、一斉に振り返る。 「だからあたしはこうして一生懸命に探し」 「遅れてすまない!」 息を切らし駆け込んで来た岡部教諭の登場に、拳を握り締め、今全てを解き放つ瞬間にあったハルヒ は、ストンと腰を落し、むっつりとした面構えで窓から一望出来る風景を睨み付けた。 キョンは会話が終了した事を悟り、体を前に向けた。 そして、壇上に上がった岡部教諭を一度見、ついでにと目線を泳がせていると意外な人物と視線が交 じり合う。 朝倉涼子だった。キョンは慌てて視線を反らした。意外にシャイな男なのだ。 しかし、一体何故朝倉は涼宮ハルヒの事ばかり気にかけるのか……、その本意は全く不明ではあった が、些かお節介が過ぎるのでは。 「まあ、考えても仕方ないか」 思考を中断し、消耗した精神力を養う為に残りの時間を惰眠を貪る事に決める。 * 時の概念に束縛されず、情報体のみで形成された情報統合思念体。 彼の者はあらゆる時間軸に於いて存在し、また全てを繋ぐ事が出来る。 いわゆる、同期というものだ。 故に、未来も過去も、全てを把握し、起こり得る事象を改ざんする事など造作の無い事だった。 だが、こうして観察に徹している、という有り様は些か上層部に不審を抱かずには居られなかった。 彼女達、対ヒューマノイドインターフェースを介して、涼宮ハルヒがもたらす 自律進化 の可能性と いう不明確な情報を待望し、此処に存在している。 だが、情報統合思念体ですら認知していない人物がいた。 アレ は我々の予定に無い、全くの不確定要素だった。 あの珍妙な、キョンというあだ名の少年が問題なのだ。彼は他とは違う異質な何かを感じる。 突如として存在し、過去、未来、どちらにも俗さない異様な存在。 あたかも、始めからそこに居るのが当然の様に振る舞う少年。 時の流れにすら同期させ、現在を基点に過去、未来に対して自己の存在を主張する様に、まるで植物 が根を張り巡らす様にそれは徐々に形成されて行く。 その少年が、涼宮ハルヒに対して唯一接触出来る人物だ。 一体、何故彼が選ばれたのか、理解不能だった。 涼子は怪訝な面持ちで二人のやりとりを眺めていた。 一体彼と私、何が違う?涼子は深い疑念を抱いた。 入学以来、積極的に涼宮ハルヒに対して接触を試みていた彼女にとってそれは当然の帰結だった。 「彼が……涼宮ハルヒに対する鍵……?」 歪んだ存在が、全ての答えを導き出す一途の光に見えた。 * 長門有希の無機質な生活(彼女は自らの役割に徹する為、余計なオプションの追加を為されていない為) を支援、管理する役割を持っている。人間の構造を模して造られた体は、やはり人間同様に栄養を接種し なければならない。 その手間暇こそ、最初は面倒ではあったが、慣れればどうと言う事は無い。 今では、市販されている料理の手法が記された本を参考に様々な料理を作るのが楽しいとさえ感じてい る。 その日、朝倉涼子がその情報を伝えられたのは、いつもそうする様に長門有希に晩餐を振る舞った時だ った。 涼宮ハルヒが 世界を 大いに盛り上げる 涼宮ハルヒの 団 、略して SOS団 なる組織を造った事を 現場を統括する長門有希により知らされた。情報統合思念体ですら、全く予想していなかった事象である。 しかし、やはり、そこには アレ の存在が在った。 他にも未来からのエージェント朝比奈みくるが紛れ込んでいたが支障は無いとの事だ。 「はぁ……。私は何の為にいるのかしら」 分乗マンションの自室にしつらえたベットに身を深く沈めさせ、溢れた言葉は溜め息混じり。 その己が身を蝕む様に全身を支配する感覚。 涼子は最初こそ戸惑ったものの正体、つまりは人間でいう感情を徐々にでは在ったが抱き始めていた。 長門有希がもたらした情報の意味。 それを知った涼子は得体の知れぬ衝撃に打たれた。 それは、恐怖。 自身の存在が、居場所が、意味が無くなる事を意味していた。 今までは涼子が担当していた役割を、突如、涼宮ハルヒが接触し、あまつさえ結成したSOS団の構成員 に入れた長門有希がその任を任される事は明白だった。 それに、情報統合思念体の覇権争いで彼女、つまりは長門有希が属する主流派が、目の敵にしているの が涼子の所属する急進派であった事から、更に拍車が掛っている。 「まだ……、まだ諦めない。私は見付けたんだから。涼宮ハルヒの、自律進化の鍵を……!」 精緻に整った顔を歪ませ、うっすらと浮かべた笑みは、悪意が溢れ出していた。
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『涙』 SOS団の活動の一環として毎週土曜日に駅前に集まり、不思議探索をする。という 涼宮ハルヒの提案――発言した時点で既に決定事項なのだが――に誰も反発する事 は無く、勿論キョンは反対したがハルヒは聞く耳を持たなかった。半強制的に決定 された不思議探索の第一回目の午前の活動時にキョンはある少女に驚愕の事実を伝 えられた。 その少女というのは、愛玩動物の様な愛らしさを持つ朝比奈みくるであった。 みくる曰く、「私は未来から来ました」という突拍子の無いものであり、例の如 くキョンは戸惑いながらも、先の長門の件があった為、彼女の言葉をすんなりと受 け入れる事は出来た。 週明けの放課後、文芸部室から古泉一樹を連れだしたキョンは、彼の素性を聞き 出し、いわゆる超能力者と閉鎖空間なるものの存在を知る。 その後、古泉一樹が閉鎖空間へとキョンを伴い、そこで現在起きている事象の一 部である、異層空間である閉鎖空間にて 神人 と呼ばれる巨人、それと相対する超 能力者により戦闘を目の当たりにする。 ──この世界は、何処で歯車が壊れてしまったのだろう。 * とある放課後、文芸部室にて暇潰しにでもと、SOS団で唯一の同性である古泉一 樹との将棋を飽く事無く繰り返していた。 初めは、単なる暇潰しの為に自室の押し入れの奥にしまいこんだオセロを持って きて、朝比奈みくるに手解きしながら暇を潰していた。それで興味深そうに眺めて いた古泉と打ち合った事がきっかけになったのだろう。 古泉は趣味の合う相手が身近に居た事に歓喜に震え、多種多彩のボードゲームを 持っていると言って、部室の一画に一つ、又一つとボードゲームを積み上げていっ た。 そんな姿に内心苦笑しつつも、付き合っているキョンであった。 現在の盤上はキョンが優位に進めている状態であり、古泉は予想外の戦略に翻弄 されながらも健闘を見せている。 「飛車は頂いた」 「くっ……、その手はお見通しでしたよ」 痛恨の一手に僅ながらも張り付けた澄まし顔が歪む。 古泉は、痛手を負った自分の布陣を目線だけで確認し、次の手を練る。若干皺の 寄った眉根が彼の苦心を露にしていた。 そんな、古泉の一挙手一投足に目を見張っていたキョンは、口角をにやりと上げ た。 連勝に加え優勢に心のゆとりがあった為か、部室内に目線を泳がせた。 団長席と書かれた三角錐の乗る机で一人何かをごちながらコンピ研から略奪した 最新型のデスクトップでネットサーフィンでもやっているのだろう人物を視界に入 れる。 マウスをカチカチとせわしなく叩き、目当ての物を見付けたのだろう、「ふふん」 と満面の笑みで吐息を洩らす。 (いつ見ても忙しそうだな、お前は……) その隣では、パイプ椅子に腰を下ろし、茶葉に関する専門書をいつにも増して真 剣になり読み耽っている朝比奈みくるを見た。 (朝比奈さん、何であなたは律儀にもメイド服を着続けるんですか?) どうでもいい疑問が浮かぶ。 彼女は涼宮ハルヒが、「明日から部室に居る時はこれを着る事!いいわね?」と 命令口調で言われ、さながら小動物の様に小刻に震えながらも必死に首肯を繰り返 し、それを承諾してしまったのだ。 以来、朝比奈みくるはSOS団専属のメイドになってしまったわけだ。 (本人が気に入っているなら……、それでいいが) それに目の保養にもなる。 最後に部室の窓際の指定席で分厚いハードカバーを読んでいる眼鏡娘を見た。 相変わらず、視線は文字を追うだけの作業に徹している。一体、何を読んでいる のだろう。気になったキョンは両目を眇たが、長門の小さな手が阻んでそれを確認 する事は叶わなかった。 その何でもない平穏な日常を一通り眺めた後、キョンは嘆息を漏らした。 (こうしていれば、皆普通に見えるのにな……) キョンは長門の言葉を反芻しながら、情報を整理し始めた。 (「涼宮ハルヒは意識的にしろ無意識的にしろ、自分に都合の良い環境を造り出す」) その言葉の通りになっている。現に、SOS団のメンバーの中に、曰く宇宙人、未来 人、超能力者が集っている。 それはまさに、涼宮ハルヒの願望の現れでは無いのか?キョンは入学早々、涼宮 ハルヒの自己紹介を反芻した。 (「この中に、宇宙人、未来人、異世界人、またはそれらに準ずるもの」) まさか、本当なのか? キョンは疑念を抱いたまま、またそれらの明確な証明が何も成されていないため、 どうにも信憑性に欠けてはいたが、少しずつ長門の言葉を信じ始めていた。 「どうされたんですか?何か……悩み事でも?」 不意に掛けられた言葉に思わず体がびくり、と上下に揺れる。 「いや……ちょっとな」 「僕で良ければ相談に乗りますよ?」 「断固、遠慮させてもらう」 「そうですか。それは残念だっと……」 パチッと乾いた音が部室に響く。 「その手は読んでたぜ」 古泉の閉じられていた切長の双眸がゆっくりと開かれた。自ら敵の策中に陥った 古泉であった。 その日の団活も、部活動終了を告げるチャイムより、一拍程早い長門の本を閉じ る音を合図に解散する事になった。 * 「遅いな……」 夕陽が辺りを茜色に染め上げ、虫の羽音が奏でる音を堪能しながら昇降口の前で 佇む少女、朝倉涼子は嘆息混じりに一人ごちた。 涼子は一人の少年を待っていた。 今日は帰りに買い物に付き合ってくれると約束していたのだが。その事に聞耳を 立てていたハルヒが、無理矢理SOS団の活動に連れ去ったのだ。 ハルヒに対して、キョンは今日は予定があるから帰ると申し出たが、「駄目よ。 団員としての自覚が全然なってないわね!」と逆に叱咤されてしまう。 特に、何をする訳でも無いのだが。 ハルヒは自覚の無い、理不尽に胸を締め付ける感覚を振り払う為にやっただけだっ た。 涼子は空を仰いだ。 茜色に染まる雲の切れ間から覗く、うっすらと光る星の海。 個体として酸化惑星の自然を感じるというのは、実に悪くない気分だった。 産み出されて三年の時しか経てない涼子には全てが新鮮に感じる事が出来た。 「朝倉……?もしかして待ってたのか?」 待望していた声が耳朶を叩いた。 ゆっくりとした動作で振り返ると、そこには不機嫌そうに顔を顰めた涼宮ハルヒ、 何事かと視線を慌ただしく動かす朝比奈みくる、澄まし顔で涼宮ハルヒを宥める古 泉一樹、視点を本に納めながら微動だにしない長門有希。そして、異能者の中に居 る、唯一一般人となんら変わりない少年キョン。 言わずと知れたSOS団の面々がそこに居た。 涼子は頬にかかった髪を耳に掛ける。 さて、何と言って困らせてやろうか。散々待たされた上に、このまま置いていか れたら堪ったものではない。 今日の買い物は二人の共通の友人の少女に関しての物だ。 その少女の名は長門有希。 先週の土曜日、不思議探索を行うという涼宮ハルヒの提案の元、SOS団の野外活 動が行われた。 その時、長門の服装は北高の制服に黒のカーディガンを羽織ったものだった。 休日に制服姿、というのは特に珍しいものではないのだが、私服姿の連中に混じ って行動するのは如何なものか。と、長門の私生活を目の当たりにしたキョンが、 長門の今後を懸念して涼子に相談を持ち掛けたのだ。 そう、今日は長門有希の私服を購入する為に市外のショッピングモールに行こう、 という約束をしたのだ。 だが、思わぬ邪魔が入った――涼宮ハルヒがキョンを強引に連れていった――為、 涼子は今日は諦めて帰ろうと一時考えたが、しかし涼子は待つ事に決めた。 無粋な長門有希の為、というのもある。だが、キョンと一緒に出掛けられるとい う事に心踊る思いでいた為に諦めずにはいられなかった。 だが、キョンにとっては予想外の事態であろう。故に、今も困った顔をしている。 そんな彼をこれ以上困らせていいものか?もし、それが原因で彼が自分を避ける 様になってしまったら?自分に宛がわれた任務には支障はない。が、駄目だ。彼に は嫌われたくない。 そんな想いが錯綜する中、涼子は躊躇いがちに言葉を紡いだ。 「遅いよ」 茜色に染まった髪が、蒼白い顔が、とても綺麗だった。 キョンは息を呑んだ。 呆然と、一人の少女をただ見詰めていた。 確に放課後、買い物に付き合ってと頼まれた。それも、自分が相談した事が起因 しているとあれば断れるはずもない。 だが、涼宮に強引に団活に参加させられ、朝倉は既に帰宅したと思っていた。 それ故に、キョンは驚愕を隠せないでいた。 「……ほら、何してんのよ。約束してるんでしょ?行けばいいじゃない、さっさと 行きなさいよ!」 さすがの涼宮もここまでされたら折れるのか。と一人得心し、苛立ちと苦虫を噛 み締めた様な表情を見て苦笑した。 古泉の携帯が鳴る。 (すまんな、古泉。これはきっと規定事項なんだろうよ) 心の中で、エスパー少年に謝っておく。 「ああ、すまんな。じゃあ皆、今日はここで」 そう言って、SOS団の面々と別れた後、躊躇いがちに此方を見詰めている少女の 元に歩み寄った。 「すまん、待たせた。すっかり帰ったものかと思っていたしな……。その、今日は 悪かった」 これだけで許してはくれないだろう。 だが、朝倉は違った。 「いいよ、私が待っていたかっただけなんだから」 そう言って、許してくれた。笑ってくれた。 それだけなのに、キョンはその笑顔に心底見惚れてしまった。 脳は熱にほだされ、体中に電気が走った様に痺れる。 「どうしたの?」 「いっいや、何でもない!」 朝倉に怪訝な面持ちで見上げられ、堪らずに視線を逸らした。 激しくなる動悸。 初めて体感する感覚に翻弄され、混濁とした意識の中、朝倉に手を握られた。 「おっ……、おうっ、おうっ」 側から見れば、それはオットセイの喘ぎ声に聞こえたかも知れない。 だが、必死なのだ。 必死で欲望の渦巻く混沌の境地へ旅立とうとする意識を繋ぎ止めているのだ。 「ちょっと、大丈夫なの?」 これにはさすがに動揺したのか、朝倉は目を丸くしていた。 狼狽せずには居られなかったキョンは、必死にかぶりを振り、何とか平静を取り 戻す。 「だ……大丈夫だ」 確りとした言葉で答え、しかし、高揚した顔に脂汗に滲ませ、顔をヒクつかせて いれば大丈夫では無いのは一目瞭然なのだが、それでも言い張った。 「大丈夫……かも」 「なあにそれ?もう、しっかりしてよね」 二人の笑い声が、暮れ行く空の下、響き渡った。 * 「これなんかどうかな?」 涼子は手に取った薄桃色のカーディガンを、左手に 持っている 白いワンピースに合わせた。 顎に指を添えそれを見つめ、たっぷり十秒唸っていたキョンは、 「こっちのほうがあいつに似合うんじゃないか?」 薄緑色カーディガンを手に取り、涼子の持つ白のワンピースに重ねる。 「あっ、それいいかも」 涼子は納得の頷きで答え、「じゃあ買ってくるね」とレジに向かって行った。 二人は今、市外の駅ビルの二階にあるアパレル専門店にいる。 二人の共通の友人である長門有希の為なのだが、これはデートなのだろうか? 「うぅむ……」 何故か、後ろ髪を引かれる思いでいたキョン。 朝倉涼子、クラスメイトである少女。容姿端麗、成績優秀、運動能力は抜群。比 較の対象にならない程、何の取り得も無く情けない事この上ない自分に、何故か近 付いてくる少女。 (まさか、朝倉も涼宮が目的で……?) 疑念に駆られたのは一瞬、朝倉はすぐに駆け戻って来た。 「お待たせ」 「おう、金は足りたか?」 「うん。キョン君にも出して貰っちゃったし……、本当に今日はありがとうね」 「いいよ、元々は俺が言い出した事だし……、それじゃ行こうか?」 「うん」 キョンが店を出る様促すと、朝倉は満面の笑みで答えた。 ふと、時計に視線を下ろす。十九時を回っていた。それもそうだろう、北高を出 た時点で十七時を過ぎていたのだから。 「もう、こんな時間か。朝倉、時間平気なのか?親御さん、心配するだろ?」 「……え?」 朝倉の表情が固まった。何か、触れてはいけない事情があるのだろうか。 朝倉は二の句を告げずにいた。そのまま顔を顰め、俯く。 「朝……倉?その、聞いちゃいけない事情があったなら……、その……すまない」 「……うん、平気……だよ?それより、キョン君こそ時間は平気なの?」 申し訳なさそうに謝るキョンに、涼子は微笑み、自分に向けられた言葉をそのま ま返す。 「俺は、まあ大丈夫だよ」 キョンも微笑みで返した。だが、それ以上会話が続かなかった。 * 駅前を抜け、辺りは昼間の喧騒が嘘の様にすっかりと静寂に包まれていた。 空を仰げばそこには星々が、夜空というキャンパスに散りばめられた宝石の様に 爛々と輝いている。 ふと、隣を歩く少女に目線をやった。 月明かりは隣を歩く少女の髪を妖しく照らし、微風になびく髪からはシャンプー の香り。それだけで、緊張もするし鼓動も早くなる。自分がどれだけ異性に対して 免疫が薄いのかが解る。 今までの人生で、この様な希薄な時を過ごした事があっただろうか。 ……記憶の残偲に色濃く残るのは一人の少女。 だが、その少女と共に居た。という形での記憶しかない。時系列に沿った記憶等 は無い。過去というものが明確ではなかった。 まるで自分という存在が、現在にしか存在していないみたいな、妙な感慨を抱い た。 (いかんな、最近どうにも調子がおかしい。涼宮にでも感化されたか?……それは ないな) そんな思考を巡らせながら、キョンは馬鹿な事を考えている事に気付き、かぶり を振った。 「どうしたの?」 不意に声を掛けられ、上擦りそうになる声を必死に抑え、キョンは答える。 「いっいや、何でもない。何でもないんだ」 「そう?ならいいんだけど」 そう言うと朝倉は口を噤み、それきり喋らなくなった。 (なんなんだろうな、このぎこちなさは……) 居心地の悪さだけが身に染みている。 先程、彼女に親の事を聞いた事が皮切りとなったのだろう。以来、会話という会 話が成り立たず、現状に至る。 そんな居心地の悪さを歯噛みしつつ、目前に迫った高級分譲マンションに辿りつ く。 「今日は、ありがとう。キョン君。きっと長門さんも喜んでくれると思うよ」 「ああ、そうだな」 気のない返事しか返せない。そんな己に自己嫌悪を抱きつつも、キョンは出来る 限りの笑顔で別れを告げる。 「……また明日」 朝倉は一瞬顔を曇らせ、長い睫から覗く瞳に陰りを落として俯く。 (何で……、そんな顔をするんだよ) 胸の奥が痛む。 ややあって、面を上げた朝倉は微笑んでいた。 「……じゃあ、また明日」 朝倉は踵を返し、小走りでエントランスに駆け込んで行く。その後ろ姿を見送っ た後、深い溜め息が溢れた。これでは、朝倉と居た時間が窮屈であったと言ってい る様なものではないか。 「……駄目な男だな、俺は」 自嘲気味な言葉を洩らした。 「そういえば……」 そして、駐輪場に自転車を置きっ放しにしていた事に気付いた。 * 何で、失敗ばかりするんだろう。 人間が相手なら何万通りもある状況パターンから、相手の行動を予測し、結果に 応じて動く事は容易い。 しかし、彼に対してはその予測の時点でつまづいてしまう。 解ってはいた。解ってはいるのだが、全てを演算処理で解析する対有機生命体コ ンタクト用ヒューマノイド・インターフェースの朝倉涼子には難儀であった。 彼女達は人間を模して創造されたが、人間という生命体の活動の大部分を締める 感情 が無いのである。 状況に合わせて表情を形成したり、最善と思われる行動を選択するのが常だが。 本来ならば、時間という概念が適用されない彼女達は、時間軸の流れに対して指定 した座標の情報と同期する事が可能なのだが。 ある男が関わる因果は同期の時点でエラーが生じてしまい、正確な情報を得る事 が出来ない。 ある男――涼宮ハルヒに最も近しい位置にいるキョンという綽名の少年。 初めこそ、単なる気まぐれかと思ってはいたが、涼宮ハルヒが行動を起こすきっ かけを彼が全て与えているのを見抜き、彼が涼宮ハルヒに与える影響力を利用して、 一向に動きを見せない観察対象に対して一石を投じるつもりでいたのだが……。 今は、それどころではない。己を制御するのでやっとだった。 彼女は今、自室のベットに横たわり、唇を噛み締め、シーツをくしゃくしゃに握 り絞めながら、押し潰されそうになる胸の痛みに耐えていた。 「……やだよ、こんなの……」 目尻に溜った滴が頬を伝わってシーツに染み込んで行く。 「……あれ?やだ、なにこれ……。私……、泣いてるの……?人間、みたい…… じゃない……」 そんな訳ないのに。 自嘲笑気味に笑いながら仰向けに直り、袖口で滴を拭った。 「私は……ただのツクリモノなんだから――」 自分で吐いた言葉が、何故か痛い程胸を締め付けた。 ──朝倉涼子の軌跡 涙 END──
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(株)情報統合思念体をクビになった私は、しばらくフリーターをしながら無気力に暮らしていた。 思えば私は子どもの頃からTFEIのエージェントに憧れて、ずっとTFEIになることだけを考えて頑張ってきたんだった。 だからTFEIの地位を失った喪失感は大きかった。なにを目標に生きれば良いかの分からないし、そもそもなにをすればいいのかさえ分からない。 実家の父母は、私が失業したことを知らない。知らせられるわけがない。 両親は私の夢を応援してくれていたし、私がTFEIになって上京したした時も、諸手をあげて喜んでくれたんだもの。 言えるわけないよ。 だから私は、(株)情報統合思念体でまだ働いているということになっている。 けど働いていかなければ、生計をたてることができない。バイトはしてるけど、正直バイトで暮らしていけるほど都会は甘くない。 だから私は昼間のコンビニのバイトに加え、夜おでんの屋台を開くことにした。 社長「朝倉ちゃん、もういっぱい!」 朝倉「社長さん、そろそろおしまいにしたら? 体に毒よ」 社長「もう一杯だけだから。もう一杯だけつけてちょうだい!」 朝倉「はいはい。これでお勘定にしてくださいね」 社長「わあってるって。朝倉ちゃんがそう言うなら、今日はこれくらいにしとくよ」 決して儲けがいいわけじゃないし楽な暮らしでもなかったけれど、私はこの生活が好きだった。 コンビニのバイトにしてもおでんの屋台にしても、人と深く関わることなく仕事をこなすことができる。 もう人間関係に深く関わってヤキモキするような気分を味わうのはたくさん。思いつめて思いつめて、その末の行動で大きな失敗をしてしまった私には、人の人生をただ傍観しているだけの今の仕事の方がお似合いなのかもしれないから。 朝倉「あら、社長さん。今日も来てくれたの?」 社長「ああ。この橋の下はちょうど帰り道でね。夕食を食べて帰るのにちょうどいいんだ」 朝倉「うれしいわ。じゃあ、今日はなにからいきます?」 社長「とりあえず大根というものをもらおうか。あと、日本酒」 岡部「社長さん。こんばんわ」 社長「おや、先生。今日は早いね」 岡部「クラブ帰りですよ。これでも。朝倉、はんぺん」 朝倉「先生もこんばんわ。はい、はんぺん」 岡部「ありがと」 朝倉「先生、最近調子です?」 岡部「今年はなかなかいい新人が入ってね。今年の大会は期待できそうなんだ。今から楽しみだぞ」 朝倉「うふふ、先生ったら。いつもハンドボール部のことばかり。よほど好きなんですね、ハンドボール」 朝倉「今日は雨ね。やだわ。今日は早めにお店、閉めようかしら」 社長「今日はもう店じまいするのかね?」 朝倉「雨だとお客さんもこないですから。社長さんが帰ったら閉めますよ」 社長「そうか。じゃあ、今日は遅くまで飲んでいこうかな」 朝倉「まあ、社長さんったら。いじわるね」 社長「ははは。冗談だよ。すまんすまん、何故かな、朝倉ちゃんを見ていると、ついつい悪い冗談の一つも言ってみたくなるんだよ」 朝倉「からかってるんですね。お酒、ついであげませんよ?」 社長「おいおい、勘弁してくれよ。朝倉ちゃんについでもらう一杯が楽しみで毎日仕事をがんばってるこっちの身にもなってくれよ」 社長「うちにもキミと同じくらいの年頃の娘がいるんだがね。これが朝倉ちゃんと違ってジャジャ馬なんだ。誰に似たのか。学校の校庭に落書きしてたり、教室の机を全部廊下に出したりとイタヅラばかりやっててね。よく先生から叱咤されているよ」 朝倉「元気な娘さんじゃないですか」 社長「元気なだけがとりえさ。高校に入ったら少しはおとなしくなるかと思えば、バニーガールの衣装を着て学校の校門でチラシを配ったりしてたんだよ」 朝倉「まあ、活発ですこと」 社長「そのせいでこないだは学校に呼び出されて、岡部さんに懇々と育児について諭されてしまったよ」 朝倉「ふふふ、岡部さんもハンドボール以外のこともしてたんですね」 社長「今の元気な娘も好きなんだが、たまに思うことがあるんだよ。もしも、うちも娘が朝倉ちゃんみたいな子だったらってね」 岡部「今日もじめじめした日だな」 朝倉「そうですね。うちとしては湿気よりも、蚊が増えてきたのが悩みですけど」 係長「まあ、屋台だからね。壁がないからどっからでも蚊が出てくるのも仕方ないさ。やれやれ」 朝倉「係長さん、今日は社長さんと一緒じゃなかったの?」 係長「社長は今、残業中ですよ」 岡部「涼宮さんも大変だね。今のご時勢に会社を経営していくことなんて楽じゃないだろうに」 係長「最高責任者ですからね。自分たち下っ端には分からないし縁もないような悩みがたくさんあるんですよ。私の最近の悩みなんて、息子が自転車を駅前で撤去されたことくらいですよ」 朝倉「そうなの。今度きたら、社長さんの好きな大根をサービスしてあげましょう」 係長「社長よろこびますよ。朝倉さんところの大根はうまいっていつも言ってますからね」 社長「うい~、こんばんわ! 朝倉ちゃん!」 朝倉「あら社長さん。もう酔ってるの?」 岡部「どこでひっかけてきたんですか。待ってたんですよ?」 朝倉「まあまあ。どうぞかけてください」 係長「社長、朝倉さんが社長のために大根をサービスしてくれるそうですよ」 朝倉「係長さんったら。私が言おうと思ってたことを先に言っちゃって」 朝倉「社長さん、係長さん? 岡部さん? もう、みんな酔って寝ちゃったの?」 朝倉「しかたないわね。お店しめてから、もう一回起こしてみましょう」 朝倉「? あら、なにかしら、あれ?」 朝倉「あ、あれは、神人!? こ、こっちにくる!」 なんてこと。気づかないうちに閉鎖空間に迷い込んでしまったなんて。 特別な力を持つ人じゃない限りこの空間に紛れ込むことは滅多にないっていうのに。運が悪いわ……。 私だけならまだしも、社長さんと係長さんと岡部先生までここに取り込まれるなんて。 3人が酔いつぶれてくれていて、助かったわ。 神人の振り下ろした腕が、屋台から数十メートル離れた土手を粉々に粉砕する。土や石が煙となって飛んでくる。 なんとか私の力で衝撃をくいとめているけれど、自分の情報管理空間でもないここでは、正直いってきついわね…。 ゆっくりと体を持ち上げた神人がこっちに顔を向けた。3人が寝ててくれて助かるわ。もし今、社長さんと係長さんと岡部先生が起きてあの神人を見たら、なんて言うかしら。 考えたくもないわね。 機関の人間たちはなにをしてるのかしら。今こそ彼ら彼女たちの活躍の時じゃない。善良な一般市民が巨大生物に襲われそうになってるのよ? 早く飛んできなさいよ。 シールドを展開する手がすこしづつ下がってくる。やっぱり、ちょっときついわね……。 視界の端で、私の屋台が音をたてて弾き飛び、木屑をまき散らして四散するのが見えた。 神人の足が一歩ふみだされた。その振動で体がわずかに飛び上がる。 3人の意識が目覚めないように情報操作しつつシールド展開なんて……。 私に、長門さんのような力があれば………。今だけは、本当に彼女がうらやましいわ。 ああ、やっぱり私はバックアップでしかなかったか…。 神人の蹴り砕いた土手から転がり出た人間ほどの大きさの小岩が、勢いよく飛んでくるのが目に入った。 せめて今、私一人だったなら。あれくらいの岩はじき飛ばすこともできたのに………。 私の作り出したシールドの許容容量をこえる質量の岩が目の前までせまっていた。 これまで、か……。 岩が私のシールドを突き破ろうとした瞬間。黒ずんだ土くれはテレビの砂嵐のようにざらざらと見る間に崩れ去っていった。 岩が…。こんなことができるのは、TFEIしかいない。まさか 長門「………情報連結の解除を確認」 朝倉「長門さん!? なぜここに」 長門「………なぜ? あなたにはその解が分かっているはず。答える必要はないと推測する」 朝倉「分かってるわよ。涼宮ハルヒのお父さんを守りにきたんでしょ。でも一言、昔の同僚を助けにきた、なんて言う愛想が……あるわけないわね」 長門「………ない」 朝倉「後ろで寝ている3人の意識情報は私が担当するわ。長門さんはシールドの展開をお願いね」 長門「………分かった」 朝倉「皮肉なものね。あなたと直接一緒に仕事をしたことはなのに、私がTFEIの肩書きを失った今、こうして共同で作業しているなんて」 長門「………私は、皮肉とは思わない。過去現在を問わず、そうする必要が認められる事例はなかった。それだけ」 朝倉「相変わらずあっさりしてるわね。でも、今こうしてあなた一人では手に負えない事態が発生しているのに、なんであなた一人しかいないの? 今のバックアップとは協力体制をとらないの?」 長門「………朝倉涼子の後任は、まだ決定していない」 朝倉「あら、そうだったの」 長門「………そう」 朝倉「観察対象に変化がないんだし、バックアップなんて設定する必要ないと判断されたのかしら。まあ、部外者の私には関係のないことですけど。長門さんくらい優秀なTFEIには、バックアップの必要はないと思われているのかもね」 長門「………緊急の事態が発生しないとも限らない。可能性を考慮し、バックアップを設定することは適切」 朝倉「じゃあ誰でもいいじゃない。必要があるのなら、早く決めればいいのに。TFEIは他にもいるでしょ。だれでもいいじゃない…」 長門「………(株)情報統合思念体は、あなたと同程度の能力を有する者がバックアップにふさわしいと判断している。しかしまだそれに適当と認められる該当者がいない以上、安易に後任を選定することはできない」 朝倉「……なによ。それ」 長門「………機関の能力者がきたみたい」 朝倉「遅いわよ。まったく」 長門「………手遅れにならずに済んだ」 朝倉「手遅れよ。余計な話きいちゃったじゃない」 長門「………涼宮ハルヒの父親を救助した功績は大きい」 朝倉「功績なんて関係ないわ。今の私にはね」 長門「………あなたが希望するなら、私からもあなたの復職を上層部に提案してもよい」 朝倉「……本気で言ってるの?」 長門「………本気。先ほども言ったはず。あなたの能力に及ぶTFEIはまだいないと。あなたが以前と同じ過ちを犯さないという反省がみられるのなら、TFEIに復職できる可能性は高いと思われる」 朝倉「TFEIになることが、子どもの頃からの私の夢だったわ。TFEIになれた時は、世界中が輝いて見えるほど嬉しかったことを覚えているわ。だからTFEIには誇りを持っていたし、自分なりの信念を持って行動してきたつもり」 長門「………なら、私があなたの口添えを 朝倉「だから、自分がTFEIとして間違った行動を執ったことがあるとは思っていない」 長門「………あなたがあの日、教室を情報管理空間に位相転移したことは明らかな越権行為」 朝倉「承知の上でしたことよ。だから、そのことを理由にクビになったことも納得できていたし、反論するつもりはないわ」 長門「………では、TFEIに復職することは」 朝倉「ないでしょうね。自分の信念をまげてまでTFEIに戻ろうとは思ってないわ」 長門「………そう」 朝倉「長門さん。あなた、言ったわよね。私が涼宮ハルヒの父親を助けたって」 長門「………言った」 朝倉「私は涼宮ハルヒの父親なんて助けていないわよ。涼宮ハルヒなんて、今の私にはまったく関係ない人物だもの」 長門「………しかし、あなたは涼宮ハルヒの父親を事実、救出している」 朝倉「そうね。結果的にそうなっているわね。でも、私が助けたのは涼宮ハルヒの父じゃなくて、さえない中小企業の子煩悩な社長さん。私の店の常連さんよ。偶然それが涼宮ハルヒの父親だったというだけの話。まあ、あなたには理解できないでしょうけど」 長門「………」 朝倉「あなたの申し出は嬉しいんだけどね。ありがとう」 朝倉「よかった。壊れたと思ったけど、閉鎖空間が消えたら屋台も元にもどったわ。これがないと生活できないから」 長門「………本当に、それでよかったの?」 朝倉「いいのよ。別に。今の生活だって、嫌いじゃないし」 朝倉「そうだ。あなた、ひょっとして毎日インスタント食品とか冷凍食品とか食べてるの?」 長門「………そう。能率的」 朝倉「能率的だけど身体に悪いわよ。気が向いたらおでん食べに来なさい。サービスしてあげるから」 長門「………そう」 朝倉「そうよ。レトルトカレーよりは、ずっとおいしいと思うわ」 長門「………了解した」 朝倉「固い言い方ね。あなたらしいけど」 長門「………たのしみ」 ~完~
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(株)情報統合思念体をクビになった私は、しばらくフリーターをしながら無気力に暮らしていた。 思えば私は子どもの頃からTFEIのエージェントに憧れて、ずっとTFEIになることだけを考えて頑張ってきたんだった。 だからTFEIの地位を失った喪失感は大きかった。なにを目標に生きれば良いかの分からないし、そもそもなにをすればいいのかさえ分からない。 実家の父母は、私が失業したことを知らない。知らせられるわけがない。 両親は私の夢を応援してくれていたし、私がTFEIになって上京したした時も、諸手をあげて喜んでくれたんだもの。 言えるわけないよ。 だから私は、(株)情報統合思念体でまだ働いているということになっている。 けど働いていかなければ、生計をたてることができない。バイトはしてるけど、正直バイトで暮らしていけるほど都会は甘くない。 だから私は昼間のコンビニのバイトに加え、夜おでんの屋台を開くことにした。 社長「朝倉ちゃん、もういっぱい!」 朝倉「社長さん、そろそろおしまいにしたら? 体に毒よ」 社長「もう一杯だけだから。もう一杯だけつけてちょうだい!」 朝倉「はいはい。これでお勘定にしてくださいね」 社長「わあってるって。朝倉ちゃんがそう言うなら、今日はこれくらいにしとくよ」 決して儲けがいいわけじゃないし楽な暮らしでもなかったけれど、私はこの生活が好きだった。 コンビニのバイトにしてもおでんの屋台にしても、人と深く関わることなく仕事をこなすことができる。 もう人間関係に深く関わってヤキモキするような気分を味わうのはたくさん。思いつめて思いつめて、その末の行動で大きな失敗をしてしまった私には、人の人生をただ傍観しているだけの今の仕事の方がお似合いなのかもしれないから。 朝倉「あら、社長さん。今日も来てくれたの?」 社長「ああ。この橋の下はちょうど帰り道でね。夕食を食べて帰るのにちょうどいいんだ」 朝倉「うれしいわ。じゃあ、今日はなにからいきます?」 社長「とりあえず大根というものをもらおうか。あと、日本酒」 岡部「社長さん。こんばんわ」 社長「おや、先生。今日は早いね」 岡部「クラブ帰りですよ。これでも。朝倉、はんぺん」 朝倉「先生もこんばんわ。はい、はんぺん」 岡部「ありがと」 朝倉「先生、最近調子です?」 岡部「今年はなかなかいい新人が入ってね。今年の大会は期待できそうなんだ。今から楽しみだぞ」 朝倉「うふふ、先生ったら。いつもハンドボール部のことばかり。よほど好きなんですね、ハンドボール」 朝倉「今日は雨ね。やだわ。今日は早めにお店、閉めようかしら」 社長「今日はもう店じまいするのかね?」 朝倉「雨だとお客さんもこないですから。社長さんが帰ったら閉めますよ」 社長「そうか。じゃあ、今日は遅くまで飲んでいこうかな」 朝倉「まあ、社長さんったら。いじわるね」 社長「ははは。冗談だよ。すまんすまん、何故かな、朝倉ちゃんを見ていると、ついつい悪い冗談の一つも言ってみたくなるんだよ」 朝倉「からかってるんですね。お酒、ついであげませんよ?」 社長「おいおい、勘弁してくれよ。朝倉ちゃんについでもらう一杯が楽しみで毎日仕事をがんばってるこっちの身にもなってくれよ」 社長「うちにもキミと同じくらいの年頃の娘がいるんだがね。これが朝倉ちゃんと違ってジャジャ馬なんだ。誰に似たのか。学校の校庭に落書きしてたり、教室の机を全部廊下に出したりとイタヅラばかりやっててね。よく先生から叱咤されているよ」 朝倉「元気な娘さんじゃないですか」 社長「元気なだけがとりえさ。高校に入ったら少しはおとなしくなるかと思えば、バニーガールの衣装を着て学校の校門でチラシを配ったりしてたんだよ」 朝倉「まあ、活発ですこと」 社長「そのせいでこないだは学校に呼び出されて、岡部さんに懇々と育児について諭されてしまったよ」 朝倉「ふふふ、岡部さんもハンドボール以外のこともしてたんですね」 社長「今の元気な娘も好きなんだが、たまに思うことがあるんだよ。もしも、うちも娘が朝倉ちゃんみたいな子だったらってね」 岡部「今日もじめじめした日だな」 朝倉「そうですね。うちとしては湿気よりも、蚊が増えてきたのが悩みですけど」 係長「まあ、屋台だからね。壁がないからどっからでも蚊が出てくるのも仕方ないさ。やれやれ」 朝倉「係長さん、今日は社長さんと一緒じゃなかったの?」 係長「社長は今、残業中ですよ」 岡部「涼宮さんも大変だね。今のご時勢に会社を経営していくことなんて楽じゃないだろうに」 係長「最高責任者ですからね。自分たち下っ端には分からないし縁もないような悩みがたくさんあるんですよ。私の最近の悩みなんて、息子が自転車を駅前で撤去されたことくらいですよ」 朝倉「そうなの。今度きたら、社長さんの好きな大根をサービスしてあげましょう」 係長「社長よろこびますよ。朝倉さんところの大根はうまいっていつも言ってますからね」 社長「うい~、こんばんわ! 朝倉ちゃん!」 朝倉「あら社長さん。もう酔ってるの?」 岡部「どこでひっかけてきたんですか。待ってたんですよ?」 朝倉「まあまあ。どうぞかけてください」 係長「社長、朝倉さんが社長のために大根をサービスしてくれるそうですよ」 朝倉「係長さんったら。私が言おうと思ってたことを先に言っちゃって」 朝倉「社長さん、係長さん? 岡部さん? もう、みんな酔って寝ちゃったの?」 朝倉「しかたないわね。お店しめてから、もう一回起こしてみましょう」 朝倉「? あら、なにかしら、あれ?」 朝倉「あ、あれは、神人!? こ、こっちにくる!」 なんてこと。気づかないうちに閉鎖空間に迷い込んでしまったなんて。 特別な力を持つ人じゃない限りこの空間に紛れ込むことは滅多にないっていうのに。運が悪いわ……。 私だけならまだしも、社長さんと係長さんと岡部先生までここに取り込まれるなんて。 3人が酔いつぶれてくれていて、助かったわ。 神人の振り下ろした腕が、屋台から数十メートル離れた土手を粉々に粉砕する。土や石が煙となって飛んでくる。 なんとか私の力で衝撃をくいとめているけれど、自分の情報管理空間でもないここでは、正直いってきついわね…。 ゆっくりと体を持ち上げた神人がこっちに顔を向けた。3人が寝ててくれて助かるわ。もし今、社長さんと係長さんと岡部先生が起きてあの神人を見たら、なんて言うかしら。 考えたくもないわね。 機関の人間たちはなにをしてるのかしら。今こそ彼ら彼女たちの活躍の時じゃない。善良な一般市民が巨大生物に襲われそうになってるのよ? 早く飛んできなさいよ。 シールドを展開する手がすこしづつ下がってくる。やっぱり、ちょっときついわね……。 視界の端で、私の屋台が音をたてて弾き飛び、木屑をまき散らして四散するのが見えた。 神人の足が一歩ふみだされた。その振動で体がわずかに飛び上がる。 3人の意識が目覚めないように情報操作しつつシールド展開なんて……。 私に、長門さんのような力があれば………。今だけは、本当に彼女がうらやましいわ。 ああ、やっぱり私はバックアップでしかなかったか…。 神人の蹴り砕いた土手から転がり出た人間ほどの大きさの小岩が、勢いよく飛んでくるのが目に入った。 せめて今、私一人だったなら。あれくらいの岩はじき飛ばすこともできたのに………。 私の作り出したシールドの許容容量をこえる質量の岩が目の前までせまっていた。 これまで、か……。 岩が私のシールドを突き破ろうとした瞬間。黒ずんだ土くれはテレビの砂嵐のようにざらざらと見る間に崩れ去っていった。 岩が…。こんなことができるのは、TFEIしかいない。まさか 長門「………情報連結の解除を確認」 朝倉「長門さん!? なぜここに」 長門「………なぜ? あなたにはその解が分かっているはず。答える必要はないと推測する」 朝倉「分かってるわよ。涼宮ハルヒのお父さんを守りにきたんでしょ。でも一言、昔の同僚を助けにきた、なんて言う愛想が……あるわけないわね」 長門「………ない」 朝倉「後ろで寝ている3人の意識情報は私が担当するわ。長門さんはシールドの展開をお願いね」 長門「………分かった」 朝倉「皮肉なものね。あなたと直接一緒に仕事をしたことはなのに、私がTFEIの肩書きを失った今、こうして共同で作業しているなんて」 長門「………私は、皮肉とは思わない。過去現在を問わず、そうする必要が認められる事例はなかった。それだけ」 朝倉「相変わらずあっさりしてるわね。でも、今こうしてあなた一人では手に負えない事態が発生しているのに、なんであなた一人しかいないの? 今のバックアップとは協力体制をとらないの?」 長門「………朝倉涼子の後任は、まだ決定していない」 朝倉「あら、そうだったの」 長門「………そう」 朝倉「観察対象に変化がないんだし、バックアップなんて設定する必要ないと判断されたのかしら。まあ、部外者の私には関係のないことですけど。長門さんくらい優秀なTFEIには、バックアップの必要はないと思われているのかもね」 長門「………緊急の事態が発生しないとも限らない。可能性を考慮し、バックアップを設定することは適切」 朝倉「じゃあ誰でもいいじゃない。必要があるのなら、早く決めればいいのに。TFEIは他にもいるでしょ。だれでもいいじゃない…」 長門「………(株)情報統合思念体は、あなたと同程度の能力を有する者がバックアップにふさわしいと判断している。しかしまだそれに適当と認められる該当者がいない以上、安易に後任を選定することはできない」 朝倉「……なによ。それ」 長門「………機関の能力者がきたみたい」 朝倉「遅いわよ。まったく」 長門「………手遅れにならずに済んだ」 朝倉「手遅れよ。余計な話きいちゃったじゃない」 長門「………涼宮ハルヒの父親を救助した功績は大きい」 朝倉「功績なんて関係ないわ。今の私にはね」 長門「………あなたが希望するなら、私からもあなたの復職を上層部に提案してもよい」 朝倉「……本気で言ってるの?」 長門「………本気。先ほども言ったはず。あなたの能力に及ぶTFEIはまだいないと。あなたが以前と同じ過ちを犯さないという反省がみられるのなら、TFEIに復職できる可能性は高いと思われる」 朝倉「TFEIになることが、子どもの頃からの私の夢だったわ。TFEIになれた時は、世界中が輝いて見えるほど嬉しかったことを覚えているわ。だからTFEIには誇りを持っていたし、自分なりの信念を持って行動してきたつもり」 長門「………なら、私があなたの口添えを 朝倉「だから、自分がTFEIとして間違った行動を執ったことがあるとは思っていない」 長門「………あなたがあの日、教室を情報管理空間に位相転移したことは明らかな越権行為」 朝倉「承知の上でしたことよ。だから、そのことを理由にクビになったことも納得できていたし、反論するつもりはないわ」 長門「………では、TFEIに復職することは」 朝倉「ないでしょうね。自分の信念をまげてまでTFEIに戻ろうとは思ってないわ」 長門「………そう」 朝倉「長門さん。あなた、言ったわよね。私が涼宮ハルヒの父親を助けたって」 長門「………言った」 朝倉「私は涼宮ハルヒの父親なんて助けていないわよ。涼宮ハルヒなんて、今の私にはまったく関係ない人物だもの」 長門「………しかし、あなたは涼宮ハルヒの父親を事実、救出している」 朝倉「そうね。結果的にそうなっているわね。でも、私が助けたのは涼宮ハルヒの父じゃなくて、さえない中小企業の子煩悩な社長さん。私の店の常連さんよ。偶然それが涼宮ハルヒの父親だったというだけの話。まあ、あなたには理解できないでしょうけど」 長門「………」 朝倉「あなたの申し出は嬉しいんだけどね。ありがとう」 朝倉「よかった。壊れたと思ったけど、閉鎖空間が消えたら屋台も元にもどったわ。これがないと生活できないから」 長門「………本当に、それでよかったの?」 朝倉「いいのよ。別に。今の生活だって、嫌いじゃないし」 朝倉「そうだ。あなた、ひょっとして毎日インスタント食品とか冷凍食品とか食べてるの?」 長門「………そう。能率的」 朝倉「能率的だけど身体に悪いわよ。気が向いたらおでん食べに来なさい。サービスしてあげるから」 長門「………そう」 朝倉「そうよ。レトルトカレーよりは、ずっとおいしいと思うわ」 長門「………了解した」 朝倉「固い言い方ね。あなたらしいけど」 長門「………たのしみ」 ~完~
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読む前にこのページにも目を通していただけると嬉しいです。 「キョーンくーん!!」 …その一声で目を覚ますと。 「あーさーだーよ!!」 妹が空中にいた。 ドスン!! 「ぐはっ!!」 「早く来ないとご飯食べちゃうよ!?」バチンバチン 頭を叩きながら話しかけてくる。 …こないだ家に置き去りにしたことをまだ根に持ってやがるな。 元気に部屋を出て行く妹を見ながらあと3分後に鳴る予定だった目覚ましを手に取る。 …あいついつの間にムーンサルトプレスなんか覚えたんだ? 「キョンくん早くー!」 「あぁ、今行く」 また平凡な1日の始まりだ。 身支度を整えて家をでると谷口がいた。 …お前の家は遥か彼方じゃないのか? 「そんなことどうでもいいんだよキョン!聞いて驚け!!なんと今日は転校生が来るらしいぞ!!」 「あぁそう」 「あれ!?反応薄い!?お前しかも女子だぞ女子!!」 というかこの時代、転校生ごときで一喜一憂してるのはお前くらいだ。 「ちぇー…まぁいいや。可愛い子だといいなぁ」 「というかこの時期に転校生か?」 もうすぐ二学期も終わっちまうぞ。 「何でも親の仕事の理由で海外から日本に来るそうだ」 帰国子女みたいなもんか? ハルヒが黙っちゃいなさそうだな。 「というかそこまで知ってるなら顔もわからなかったのか?」 「…お前わかってねぇな」 …谷口に同情される日がくるとは思わなかったよ。 「いいか!?転校生ってのは未知の遭遇なんだぞ!?性別はまだしも顔の御披露目は当日のお楽しみになるんじゃないのか!?しかもそれが女ならなおさらだ!!」 これはもう…何というか…あれだな。 「…ほら、早く行かないと遅刻するぞ」 「おまっ!待てよ!!」 追いかけてくる谷口をシカトして俺は学校手前の登り坂を全力疾走した。 教室に着くと既に転校生の話題で持ちきりになっていた。 何だ…みんな知ってんのか。 「俺がチェンメで回したんだ」 誇らしげに話す谷口。 …俺のところには来てないんだが。 「あぁ、お前には俺直々に伝えてやろうと思ってな!朝5 30から家の前で待機してた!」 「そうか。二度とそんなことしなくていいぞ」 …まてよ…チェンメで回したってことは… 「ちょっとキョン!!大ニュースよ!」 同クラスのハルヒも知っているわけで… 「…ニュース?」 まぁ一応聞いといてやるか。 「あれ?あんた知らないの?」 「知ってること前提で話しかけたのか?」 「確かチェンメ回ってたと思うんだけど…まぁいいわ!聞いて驚きなさ「おーいみんな席につけー」 絶妙なタイミングで岡部が入ってきた。 「あ!変なタイミングで…まぁいいわ」 渋々机に座るハルヒ。 …前のこいつだったら授業中だろうが会話を続けただろうな。 …ハルヒも変わったのか。 「さて、今日はHRの前にみんなにしらせることがある」 騒がしかった教室がピタリと静かになった。 多分ハルヒは目を輝かせてるだろうな。 「今日からこのクラスに転校生が来ることになった」 谷口はここまで聞こえる音でハァハァ言っている。 …周りの女子が引いてるぞ。 「おーい、入ってきてくれ」 ガラガラと戸を開けて入ってくる人物。 谷口がうほっ!と言ってるのが聞こえる。 青い髪をなびかせて転校生はみんなの前に向き直った…ってあれ? あいつは確か… 「ん?どうした『禁則事項』?知り合いなのか?」 「え?あ…いや…気のせいでした…あはは」 「ちょっとキョン!SOS団に泥を塗るようなことはしないでね!?」 あぁわかったわかった。 というかだな。 俺以外の人物がこいつを不思議に思わないのが不思議なわけで。 …何が言いたいかというと。 「こんにちは。朝倉涼子といいます」 ま た お ま え か 。 「涼しいという字に子供の子で涼子と言います」 何て言いながら説明する朝倉を唖然と見つめる俺。 ってか何で誰も疑問に思わないんだ? こいつは… 「親の仕事の事情でカナダから来たそうだ」 そう、こいつはカナダに「行っている」ことになってた筈だ。 確かにこいつはこの間長門の家に出現した。 そのままこのクラスに戻ってきても自然な流れになるだろう。…だが何故誰もこいつを知らない? 「ちょっとキョン!帰国子女じゃない!是非ともSOS団に加えましょう!」 「いや…ハルヒ?俺の勘違いかもしれないが朝倉って…最初にこのクラ…」ドガッ!!!!! …気がついたらハルヒの机にチョークが刺さっていた。 「あ、ごめんなさい☆手が滑っちゃって」 投球のアフターモーションに入っている朝倉がいた。 口は笑ってるが… 『喋ったらぶち殺す』 と目が語っていた… 「ち、ちょっと危ないじゃない!」 後ろで騒ぐハルヒと自分の席に着く朝倉を交互に眺めながらこう思った。 …やれやれ。 朝倉は完全にこのクラスにいたことは無いとされてるみたいだ。 俺だけ記憶に残ってる理由がよくわからんが… 「ねぇねぇカナダってどんなとこ?」 「生まれは日本なの?」 今朝倉はクラスの女子から質問責めにあっている。 「おいキョン!俺達も話しかけてみようぜ?」 「一人で勝手に行け」 というか、言ったとしても何話していいかわからん。 …何せ一度殺されかけた相手だもんな…いや、二度か?あのカレーは人を殺せそうだしな。 しかしながら俺には谷口をスルーすることはできても…こいつをスルーすることは出来ないようだ。 「ほらキョン!あの子早く勧誘しにいくわよ!」 …俺としては一度長門に相談してから行きたかったんだが… 「朝倉さん!不思議な事には興味無いかしら!?」 いきなり机をぶっ叩いて叫びやがった。 前言撤回。こいつちっとも変わってねぇ。 「不思議な事?例えばどんな?」 目を輝かせて返事をする朝倉。…本当は知ってるんじゃないのか? 「わがSOS団では宇宙人以下略を筆頭に世界中の不思議を探し回っているわ!」 相も変わらずぶっ飛んだ内容だ。 「面白そう!是非入団させて!!」 お前も食いつくな。 っていうかこいつの目的がわからん。 長門の家ではそんな素振りは無かったが…また俺を殺しにきたのか? 「決まりね!じゃあ早速今日の放課後か「あ、ごめん」 ハルヒの話を朝倉が遮る。 「今日は終わってから変な手続きを受けないといけないみたいだからすぐに行けそうに無いわ」 「あらそうなの。まぁそんなの終わってからでもいいわ!部室の場所はわかるかしら?」 「全然わからないわ」 「安心しなさい!ここにいる雑用係のキョンが案内するわ!」 「何で俺が」 「あんたがSOS団雑用係であたしがSOS団団長だから!」 有無を言わさぬ目で話すハルヒ。 「…わかったよ」 まぁ朝倉に聞いてみたいこともあるしな。 というわけで放課後だ。 ちなみに朝倉の身体能力、学力、容姿は相変わらずずば抜けていて、100m走でハルヒと同じタイムを叩き出して、小テストも満点、そして谷口は速攻でAAAランクをつけた。 ひとつ変わったことと言えば… 「じゃあ朝倉さん!終わらせたら早く来てね!」 「えぇ、わかったわ」 ハルヒと朝倉の仲が良いことくらいか。 そうは言っても入学当初はハルヒが一方的に突き放してたんだがな。 今現在教室に俺一人。 待っている間勉強でもしてみようかと思って教科書を広げたはずなんだが、机に突っ伏して寝ていたようだ。 「ふぁ…」 欠伸をしながら眠い目をこすると、空が紅くなり始めていた。 …部室に入った瞬間ハルヒにどやされるな。 …そういや朝倉はまだなのか? 「いるわよ。ここに」 「のわっ!!」 真後ろのハルヒの席にいやがった。 ってか来てたのなら起こせばいいだろ… 「だってキョンくん、あまりにも気持ちよさそうに寝てたんだもん」 「…あぁそう…部室に行く前にお前に聞いておきたいことがあるんだがいいか?」 「私のこと?」 「そうだ」 しかし…何から聞けばいいんだろうな… 「お前は…俺を殺そうとした朝倉と同じ存在なんだよな?」 「そうよ。まぁ前にも言ったように殺す必要は無くなったんだけどね。危害を加えるつもりもないわ」 にこやかに返事をする朝倉。 普通に可愛らしいんだが台詞が恐ろしい。 「…なら何故俺以外の奴はお前のことを覚えないんだ?」 「厳密に言うと、涼宮さん以外のSOS団メンバーね。私のことを覚えいるのは」 何でそんなことする必要がある? 「だって不自然じゃない?一度カナダまで行ったはずなのに半年もせずに戻ってくるなんて。生活し辛くなる気がするわ」 …確かに。 「それに…そうすると私の目的の障害にもなっちゃうわ。できるだけスムーズにやりたいもの」 …目的? 「復讐よ」 空気が変わった気がした。 「あの時この教室で私が言ったこと覚えてる?」 「………」 「…やらないで後悔するよりやって後悔する方が良い。私ね、まだやり残したことがあるの」 「…それが…復讐?」 「そう…だからまずあなたに そう言って後ろに手を回す朝倉。 って俺に危害を加えるつもりはなかったんじゃないのか? とっさに飛び跳ねて机から離れる俺。 朝倉はまだごそごそやっている。 早く出口を…戸が塞がってやがる。 「逃げちゃだめよ。あなたにも…」 朝倉が真後ろにいた。 何か金属のようなものを持っている… 「手伝ってもらうんだから」 「へ?」 間抜けな声が出てしまった。 朝倉が手に持っていたのは…ただのお玉だった。 つづく
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読む前にこのページにも目を通していただけると嬉しいです。 「キョーンくーん!!」 …その一声で目を覚ますと。 「あーさーだーよ!!」 妹が空中にいた。 ドスン!! 「ぐはっ!!」 「早く来ないとご飯食べちゃうよ!?」バチンバチン 頭を叩きながら話しかけてくる。 …こないだ家に置き去りにしたことをまだ根に持ってやがるな。 元気に部屋を出て行く妹を見ながらあと3分後に鳴る予定だった目覚ましを手に取る。 …あいついつの間にムーンサルトプレスなんか覚えたんだ? 「キョンくん早くー!」 「あぁ、今行く」 また平凡な1日の始まりだ。 身支度を整えて家をでると谷口がいた。 …お前の家は遥か彼方じゃないのか? 「そんなことどうでもいいんだよキョン!聞いて驚け!!なんと今日は転校生が来るらしいぞ!!」 「あぁそう」 「あれ!?反応薄い!?お前しかも女子だぞ女子!!」 というかこの時代、転校生ごときで一喜一憂してるのはお前くらいだ。 「ちぇー…まぁいいや。可愛い子だといいなぁ」 「というかこの時期に転校生か?」 もうすぐ二学期も終わっちまうぞ。 「何でも親の仕事の理由で海外から日本に来るそうだ」 帰国子女みたいなもんか? ハルヒが黙っちゃいなさそうだな。 「というかそこまで知ってるなら顔もわからなかったのか?」 「…お前わかってねぇな」 …谷口に同情される日がくるとは思わなかったよ。 「いいか!?転校生ってのは未知の遭遇なんだぞ!?性別はまだしも顔の御披露目は当日のお楽しみになるんじゃないのか!?しかもそれが女ならなおさらだ!!」 これはもう…何というか…あれだな。 「…ほら、早く行かないと遅刻するぞ」 「おまっ!待てよ!!」 追いかけてくる谷口をシカトして俺は学校手前の登り坂を全力疾走した。 教室に着くと既に転校生の話題で持ちきりになっていた。 何だ…みんな知ってんのか。 「俺がチェンメで回したんだ」 誇らしげに話す谷口。 …俺のところには来てないんだが。 「あぁ、お前には俺直々に伝えてやろうと思ってな!朝5 30から家の前で待機してた!」 「そうか。二度とそんなことしなくていいぞ」 …まてよ…チェンメで回したってことは… 「ちょっとキョン!!大ニュースよ!」 同クラスのハルヒも知っているわけで… 「…ニュース?」 まぁ一応聞いといてやるか。 「あれ?あんた知らないの?」 「知ってること前提で話しかけたのか?」 「確かチェンメ回ってたと思うんだけど…まぁいいわ!聞いて驚きなさ「おーいみんな席につけー」 絶妙なタイミングで岡部が入ってきた。 「あ!変なタイミングで…まぁいいわ」 渋々机に座るハルヒ。 …前のこいつだったら授業中だろうが会話を続けただろうな。 …ハルヒも変わったのか。 「さて、今日はHRの前にみんなにしらせることがある」 騒がしかった教室がピタリと静かになった。 多分ハルヒは目を輝かせてるだろうな。 「今日からこのクラスに転校生が来ることになった」 谷口はここまで聞こえる音でハァハァ言っている。 …周りの女子が引いてるぞ。 「おーい、入ってきてくれ」 ガラガラと戸を開けて入ってくる人物。 谷口がうほっ!と言ってるのが聞こえる。 青い髪をなびかせて転校生はみんなの前に向き直った…ってあれ? あいつは確か… 「ん?どうした『禁則事項』?知り合いなのか?」 「え?あ…いや…気のせいでした…あはは」 「ちょっとキョン!SOS団に泥を塗るようなことはしないでね!?」 あぁわかったわかった。 というかだな。 俺以外の人物がこいつを不思議に思わないのが不思議なわけで。 …何が言いたいかというと。 「こんにちは。朝倉涼子といいます」 ま た お ま え か 。 「涼しいという字に子供の子で涼子と言います」 何て言いながら説明する朝倉を唖然と見つめる俺。 ってか何で誰も疑問に思わないんだ? こいつは… 「親の仕事の事情でカナダから来たそうだ」 そう、こいつはカナダに「行っている」ことになってた筈だ。 確かにこいつはこの間長門の家に出現した。 そのままこのクラスに戻ってきても自然な流れになるだろう。…だが何故誰もこいつを知らない? 「ちょっとキョン!帰国子女じゃない!是非ともSOS団に加えましょう!」 「いや…ハルヒ?俺の勘違いかもしれないが朝倉って…最初にこのクラ…」ドガッ!!!!! …気がついたらハルヒの机にチョークが刺さっていた。 「あ、ごめんなさい☆手が滑っちゃって」 投球のアフターモーションに入っている朝倉がいた。 口は笑ってるが… 『喋ったらぶち殺す』 と目が語っていた… 「ち、ちょっと危ないじゃない!」 後ろで騒ぐハルヒと自分の席に着く朝倉を交互に眺めながらこう思った。 …やれやれ。 朝倉は完全にこのクラスにいたことは無いとされてるみたいだ。 俺だけ記憶に残ってる理由がよくわからんが… 「ねぇねぇカナダってどんなとこ?」 「生まれは日本なの?」 今朝倉はクラスの女子から質問責めにあっている。 「おいキョン!俺達も話しかけてみようぜ?」 「一人で勝手に行け」 というか、言ったとしても何話していいかわからん。 …何せ一度殺されかけた相手だもんな…いや、二度か?あのカレーは人を殺せそうだしな。 しかしながら俺には谷口をスルーすることはできても…こいつをスルーすることは出来ないようだ。 「ほらキョン!あの子早く勧誘しにいくわよ!」 …俺としては一度長門に相談してから行きたかったんだが… 「朝倉さん!不思議な事には興味無いかしら!?」 いきなり机をぶっ叩いて叫びやがった。 前言撤回。こいつちっとも変わってねぇ。 「不思議な事?例えばどんな?」 目を輝かせて返事をする朝倉。…本当は知ってるんじゃないのか? 「わがSOS団では宇宙人以下略を筆頭に世界中の不思議を探し回っているわ!」 相も変わらずぶっ飛んだ内容だ。 「面白そう!是非入団させて!!」 お前も食いつくな。 っていうかこいつの目的がわからん。 長門の家ではそんな素振りは無かったが…また俺を殺しにきたのか? 「決まりね!じゃあ早速今日の放課後か「あ、ごめん」 ハルヒの話を朝倉が遮る。 「今日は終わってから変な手続きを受けないといけないみたいだからすぐに行けそうに無いわ」 「あらそうなの。まぁそんなの終わってからでもいいわ!部室の場所はわかるかしら?」 「全然わからないわ」 「安心しなさい!ここにいる雑用係のキョンが案内するわ!」 「何で俺が」 「あんたがSOS団雑用係であたしがSOS団団長だから!」 有無を言わさぬ目で話すハルヒ。 「…わかったよ」 まぁ朝倉に聞いてみたいこともあるしな。 というわけで放課後だ。 ちなみに朝倉の身体能力、学力、容姿は相変わらずずば抜けていて、100m走でハルヒと同じタイムを叩き出して、小テストも満点、そして谷口は速攻でAAAランクをつけた。 ひとつ変わったことと言えば… 「じゃあ朝倉さん!終わらせたら早く来てね!」 「えぇ、わかったわ」 ハルヒと朝倉の仲が良いことくらいか。 そうは言っても入学当初はハルヒが一方的に突き放してたんだがな。 今現在教室に俺一人。 待っている間勉強でもしてみようかと思って教科書を広げたはずなんだが、机に突っ伏して寝ていたようだ。 「ふぁ…」 欠伸をしながら眠い目をこすると、空が紅くなり始めていた。 …部室に入った瞬間ハルヒにどやされるな。 …そういや朝倉はまだなのか? 「いるわよ。ここに」 「のわっ!!」 真後ろのハルヒの席にいやがった。 ってか来てたのなら起こせばいいだろ… 「だってキョンくん、あまりにも気持ちよさそうに寝てたんだもん」 「…あぁそう…部室に行く前にお前に聞いておきたいことがあるんだがいいか?」 「私のこと?」 「そうだ」 しかし…何から聞けばいいんだろうな… 「お前は…俺を殺そうとした朝倉と同じ存在なんだよな?」 「そうよ。まぁ前にも言ったように殺す必要は無くなったんだけどね。危害を加えるつもりもないわ」 にこやかに返事をする朝倉。 普通に可愛らしいんだが台詞が恐ろしい。 「…なら何故俺以外の奴はお前のことを覚えないんだ?」 「厳密に言うと、涼宮さん以外のSOS団メンバーね。私のことを覚えいるのは」 何でそんなことする必要がある? 「だって不自然じゃない?一度カナダまで行ったはずなのに半年もせずに戻ってくるなんて。生活し辛くなる気がするわ」 …確かに。 「それに…そうすると私の目的の障害にもなっちゃうわ。できるだけスムーズにやりたいもの」 …目的? 「復讐よ」 空気が変わった気がした。 「あの時この教室で私が言ったこと覚えてる?」 「………」 「…やらないで後悔するよりやって後悔する方が良い。私ね、まだやり残したことがあるの」 「…それが…復讐?」 「そう…だからまずあなたに そう言って後ろに手を回す朝倉。 って俺に危害を加えるつもりはなかったんじゃないのか? とっさに飛び跳ねて机から離れる俺。 朝倉はまだごそごそやっている。 早く出口を…戸が塞がってやがる。 「逃げちゃだめよ。あなたにも…」 朝倉が真後ろにいた。 何か金属のようなものを持っている… 「手伝ってもらうんだから」 「へ?」 間抜けな声が出てしまった。 朝倉が手に持っていたのは…ただのお玉だった。 つづく
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4794.html
読む前にこのページにも目を通していただけると嬉しいです。 「…説明を求める」 気がついたら教室が元に戻ってた。 夕焼けの紅しか入ってこない教室にお玉を持った女子と男子が1人ずつ。 …何だよこの状況。 「んー…簡単に話すと、長門さんにされたことを味あわせてやりたいのよ」 「されたことって…あのカレーを食べさせるのか?」 「そうそう」 「あの紫色のカレーを?」 「あ、カレー風呂に入れるのもいいかもしれない!」 「…長門に?」 「長門さんに」 「ちなみにそのお玉は?」 「え?カレー作るときに使わない?」 「…止めとけ。返り討ちにあうぞ」 というかガチで戦って負けてたじゃねぇか。 「あれは1対1だったからよ!今回は勝ち目無いのがわかってるからあなたに頼んでるんじゃない!」 「落ち着け。仮にお前の手助けをしたとしてだ。俺なんか何の足しにもならないと思うぞ?」 「そんなこと無いわ。長門さんだったらキョンくんの言うことを素直に聞くと思うけど?」 …一応俺も長門に脅されてカレー風呂を体験したんだが… 「あれくらいならまだ軽い方よ!私なんてインドに飛ばされたのよ!?」 …へ? 「あなたを殺そうとしたあの日!私は消されてなんかいなかった!気がついたら長門さんの家にいたの!」 …何だって? 「…あれは忘れもしない…あなたを殺そうとした前日のこと…」 うぅ…もう嫌… 1日8食のカレー生活なんて耐えられない… 生み出されてから3年間、私は長門さんの助手として過ごしてきた。 そこのあたりの詳しい描写はひとつ前の作品を見てもらえると嬉しいわ。 カレー生活に嫌気がさして逃げ出したこともあった。 辿り着いた先は屋台のおでん屋さん。 私は心を踊らせてちくわと大根を注文したわ。 …だけど出てきたおでんはカレーの具になっていた… たっぷり30秒考えて食べてみた。 おでんの出汁でカレールーの油が分離して大変なことになっていた。 泣きそうになりながら勘定をすませ、屋台を出ようとすると真後ろに長門さんが立っていた。 …あのときは素で泣いたわ。 でもまだあれだけなら我慢できた。 だけどなんでカマドウマをすり潰して入れたカレーを食べなきゃいけないの!? …怒ったところで何も変わらない。 最近じゃ思念体が「観測対象がアクション起こさないから何とかしてくれ」なんて言ってくるし… 「はぁ…」 ため息が出てくる。 所詮私はバックアップなんだから長門さんに頼んでよ。 今日は長門さんの家に泊まり込みでカレーの研究。 夜も遅いので一旦休憩をとることになった。 私はさっき食べたカレーのせいで汗が大量にでてしまったのでお風呂に入りたかった。 っていうか一口食べただけで下着がびしょ濡れにほど汗が出るってどんだけ辛いのよ。 「…リラックスできる湯の元を入れておいた」 確か長門さんそう言ってたっけ… 湯船を見ると茶色かった。 珍しい色ね。 一通り体を洗ってから湯船に浸かる。 …首元までたっぷり入ってから気がついた。 「…カレーの臭いがする?」 というかこのお湯もヌルヌルする気がする。 咄嗟に長門さんへと通信を試みる。 ―ちょっと長門さん!?あなたこのお風呂に何かした!? ―…カレー風呂。 ―…え? ―…だからカレー風呂。 そこで通信は途絶えた。 さっさと上がって作業を開始しろと言うことらしい。 …何で私がこんな目に? …何で私は産まれたの? しばし唖然としているとまた通信が入った…思念体? 『素で退屈なので何とかアクションを起こせ』 ……………ふふ。 …あはははははははは!! そうなの!そんなに何とかしてほしいの!? そうだ、キョンくん殺してみよう。 当日、盛大に返り討ちにあった。 …気がつくと私は横になっていた。 「長門さん…ごめんなさい…」 「…いい。あなたが極度な精神不安定状態にあったのは私のせい」 「ふふっ…いいわよ…でもカマドウマをカレーに入れるのはもう勘弁してね?」 「…………」 「目 を そ ら さ な い で」 「…わかった」 「よし…ところで私は消去されたんじゃなかったの?」 「…あなたの今回の暴走の原因は私との生活によるノイローゼによるもの…今回の事件の原因はあなたではない。情報統合思念体はそう判断した」 「そっか…でも私はこのあとどうすればいいの?」 「…あなたはカナダに転校したことになった」 「え?じゃあ学校に行かなくてもいいの?」 「…そうなる。さらにあなたが望むならしばらくカナダを旅行させる事もできる」 「本当に!?長門さんそんな事できるの!?」 「…あなたの平面座標を変更する。準備に時間がかかるから行きたいのなら荷造りを」 長門さん凄いわ… 「…ただ…なるべく早く帰ってきてほしい」 荷造りしていた手が止まってしまった。 「あなたがいないと…寂しくなる」 …そう。 「わかったわ。一通り回ったらすぐ帰ってくる。お土産は何がいいかしら?」 「…カレー」 「…あったらね…はい、準備完了よ」 「…そこに座って目を閉じて」 言われた通りに座る。 「…一つ注意してほしい。この国からでたら思念体の監視外にでてしまい、通信以外の一切の能力を失ってしまう」 「え!?大丈夫なのそれ?」 「…大丈夫」 「でも変なトラブルに巻き込まれたりしたら…」 「…私がさせない」 そう言った瞬間体が軽くなる。 どうやら転送を始めたらしい。 「…右のポケットにホテルの宿泊チケットが入っている。向こうに着いたら確認して」 「わかったわ」 色んな空間のズレを感じる。 …着いたかしら? …タタタタタタ… …何の音かしら…銃声? 「隊長!も、もう弾がありません!」 「口で糞する前と後にサーを付けろと言ったはずだ!!」ターン! 「グハッ!」 「ちっ、退くぞ!白煙弾を投げろ!!」 目を開けると戦場にいた。 ―ち、ちょっと長門さん!どういうこと!? ―…迂闊。座標を間違えた。あなたが今いるところはインド北部のカシミール地方。今そこは領土争いの真っ最中。逃げて。 ―いや、長門さんの力で逃がしてよ? ―…アーアー… ―何も聞こえなーい…じゃないわよ! ―…安心して。あなたのノリツッコミはとても優秀。 ―…刺すわよ? ―…とりあえずそのまま逃げて、本場のカレーについて研究してきてほしい。 ―え!?ち、ちょっと!? そのまま一方的に通信を切られてしまった。 「…というわけなのよ…」 「…よく生きてたな…」 「必死に逃げたわ…たまたまサバイバルナイフだけ持ってたから鳥をとって食べたりして…」 「泊まるところはどうしたんだ?」 「長門さんがくれたチケット…インドのホテルのものだったの…」 「…確信犯か…」 「でも数日野宿したから服はボロボロで髪はボサボサ…ホテルに入れてもらえなかったわ…」 「………」 「何とかホテルのチケットを売って食費にしたけど…どこに行っても出てくるのはカレーばっかり…」 「…大変だったんだな…」 「そう思うなら手伝って!!」 「いや…しかしなぁ…」 実際長門には沢山世話になっているし、カレーの件以外で何かされたわけでも無いのであまり賛成したくはないのだが… 「…ダメかな?」 AAAランクの美女に上目遣いでお願いされて断る度胸も無いわけで… 「…あまり酷い内容じゃなかったらな?」 「よかった!ありがとう!!」 そう言って安心した顔つきになる朝倉。 「とりあえず明日カレーの材料持ってくるから、計画は明日話すわ!」 「あぁ、わかった…さて、部室に行くか…というかさ」 「ん?どうしたの?」 先を歩く朝倉が振り返る。 「お前と長門って…仲良いんだな」 「そうかしら」 とびきりの笑顔で朝倉は笑った。 「というわけで紹介するわ!本日からSOS団に入団することになった朝倉涼子さんよ!!」 部室内にハルヒの声が響きわたる。 古泉は朝倉と目をあわせようとしない…というか震えてないか? …まぁ結構なでかさのトラウマを植え付けられてたしな。 朝比奈さんは突然の入団希望者に驚きを隠せないようだがやがてしずしずとお茶を汲み始めた。 長門は…相変わらず指定席で分厚い本を読んでいる。 ハルヒ?言うまでもないだろ。 「ちょっとキョン!ぼーっとしてないで椅子くらい出しなさい!」 団員が増えるのが相当嬉しいのだろう。 口では厳しいこと言ってるが、目をキラキラさせている。 …きっと今のこいつの頭の中には「退屈」の文字なんてないんだろうな。 「はい、朝倉さん。お茶です」 「ありがとうございます。朝比奈先輩」 「せ、先輩なんて堅苦しいから普通に読んでください…」 「わかりました。朝比奈さん」 …しっかし部員一人増えるだけでこうも空気が変わるものなんだな。 朝倉は始めに本を読んでいる長門を見て微笑んでいる…と思いきやハルヒと朝比奈さんと談笑を開始。 最終的には俺と古泉とかわりばんこでボードゲームを始めたりと…朝倉って結構フリーダムだったんだな。 委員長というかむしろ殺人鬼というイメージが強かっただけにやっぱり意外だ。 ってか何で俺はこいつに対してこんなにも冷静でいられるのだろうか? …やっぱりハルヒ達と関わり初めてそういうものに免疫ができてしまったんだろうな。 …パタン。 そのまま長門の本を閉じる音で本日の部活終了。 そのまま全員で帰宅。 ちなみに朝倉はまたあのマンションに住むそうだ。 以前のような恐ろしさは無いが、長門とカレーの研究について進めているらしい。 …というか疲れた… 今日一日で環境が大きく変わった気がする… …そういや…明日は朝倉と何かやらかすんだっけか? …まぁいい。 とりあえず妹にムーンサルトは二度とするなと言い聞かせて、力尽きて寝てしまった。 つづく
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朝っぱらから嫌な予感がぎゅんぎゅんしていた。 良い予感なんてのは当たらないくせに悪い予感なんてのはよくよく当たるもんで、それは当たって欲しくないものほどよく当たるってことが今までの俺の乏しい人生経験が結論付けており、結論付けられているからこそ対処のしようもあるというものだが対処しようってときほど対処方法が見当たらないのもよくあることで、目にプレアデス星団みたいな輝きを宿したハルヒが何かを言い出したときくらいにどうしようもない状況に俺は置かれていた。 『放課後誰もいなくなったら、二年*組の教室に来て』 俺が朝学校にやってきて自分の下駄箱を開けると上履きの上に乗っていた紙切れにはそう書いてあった。 その丸みを帯びた文字を見た瞬間、記憶の片隅にあった戦慄が蘇る。 オレンジ色の教室。長い髪の女。ナイフ。そして閉ざされた空間。 その文字はどう考えても消えたはずの元クラスメイト、朝倉涼子のもので―― 奇しくも今日は去年のあの日と同じ日付だった。 妙な感覚だった。壮絶な危機感に襲われながらも俺は何故か同時に義務感のようなものに苛まれていた。 1時間目の休み時間、当然の策として長門のクラスに長門の姿を探しに行った俺は今日は休みだという話を聞いて嫌な予感を倍増させ、その後何度か長門の家に電話したにも関わらず長門が出なかったことにますます戦慄し、もはや相談できる相手が誰もいないということに気付いて愕然とした。 ハルヒに話したら何を言われるか分からんし朝比奈さんに言っても仕方がない。古泉に言おうかとも思ったがあのニヤケ顔を思い出してすぐさまその案は却下した。もちろん喜緑さんにも聞いておこうかとも思ったが彼女も休みだということを知って俺は地獄から這い上がろうとして蜘蛛の糸を切られたカンダタのような気分になった。 というかこんなあからさまな罠は放っとけばいいのだがそういうわけにもいかなかった。 何故だか分からんが、行かなければいけないような気がしたのだ。 そこで何が起きようとも甘んじて受け入れねばならないような、そんな気分だった。 心臓がありえない速度で脈打っている。長門がいなかったためにハルヒは早々にSOS団の活動を切り上げ、解放された俺は 適当に時間を潰し自分のクラスの教室の戸の前に立っていた。 意を決して戸を開いた俺の耳に流麗な、だが俺にとっては予想通りでかつ絶望的な声が届けられた。 「遅いよ」 朝倉涼子が、そこにいた。 「……やっぱりお前か」 「分かってたんだ。入ったら?」 入るわけがねえだろう。話が早すぎるぜ。最初からナイフを握ってやがる。 「何故お前がここにいる? 急進派の仕業か。長門と喜緑さんが学校に来なかったのもそのせいだな?」 俺は朝倉を睨み付けたまま、教室には足を踏み入れずに言った。 「話が早いわね。そのとおり。悪いけど、あなたには死んでもらうわ」 くそ。やっぱり来なきゃよかった。何で俺はこんな飛んで火にいる夏の虫そのまんまな行動をとっちまったんだ。 「あ?」 突然背中に軽い衝撃を感じた。と同時、俺はまんまと教室の中に足を踏み入れてしまい教室はあっさりとコンクリートの壁で覆い尽くされた。 「くっ……」 朝倉がまるで悪意を感じさせない笑みのまま立っている。何をされたのかは分からんが、今のは確実にこいつの仕業だ。 「正直言ってあまり時間がないのよ。上は長門さんと喜緑さんを押さえ込むので手一杯だし、それに……」 そこまで言って朝倉は口を閉ざした。一瞬、何かを案じるように眉をひそめた後笑みを取り戻し、 「それじゃあ、死んで!」 ナイフを構えると地面を蹴って一気に突進してきた。 その時だった。 天井をぶち破るような音とともに瓦礫の山が降って――何だ、このどこかで見たような光景は。 「――ちょっと、早すぎるんじゃない?」 「あら、わたしはちょっと遅すぎたと思ったんだけど」 全く同じ音質を持った声が言葉を交わす。 信じがたい光景だった。 俺の目の前で朝倉の凶刃を抑えていた北高のセーラー服を着た女―― 「ごめんね、遅れちゃって」 長い髪をたなびかせながら俺にそう詫びたのは紛れもなく、朝倉涼子だった。 「情報封鎖が甘すぎるのよ。長門さんに指摘されるのも当然だわ」 「よく出てこられたわね」 一方がナイフを突き出しもう一方がその刃を素手で抑えるという体勢のまま動かない二人の朝倉は何故か噛み合っていないような会話を繰り返す。 「そんなに難しいことじゃないわよ。だって“わたし”が望んだことだもの」 「“あなた”も、長門さんのようになりたいの?」 「ええ、もちろん。“あなた”は違うの? そうでしょうね。“あなた”はもう“わたし”じゃないもの」 もうまったくワケが解らない。解る奴がいたらここに来い。そして俺に説明しろ。 「せっかくここに来るように仕向けたのに……あなたね。彼の足を止めておいたのは」 「足を止めさせることしかできなかったけどね。でも、間に合ってよかったわ」 いったい何が起きてるってんだ。二人も朝倉がいて、しかも互いにしか分からんような会話をしてる。いや、自分と会話してるんだから自分しか分からないのは当然か? ああもう、そんなことはどうでもいい。いったい何なんだこの状況は。 「でもわざわざ教室に呼ばなくたってよかったと思わない? 殺すなら通り魔だって何だっていいじゃない」 「それは……そう。そういうことだったの」 ナイフを抑えている方の朝倉が余裕そうな笑みを浮かべているのに対して、ナイフを突き出している方の朝倉は忌々しそうに表情を歪めた。 「何となく分かっていたけどね。気に入らないわ」 「別にいいわよ。わたしもあなたのことは好きじゃないもの」 どうやら俺のことを守ってくれているらしい方の朝倉の声も次第に刺々しいものになっていく。何の喧嘩なんだよ。 「やっぱりあなたとは分かり合えそうもないわ」 「それでいいんじゃない? わたしだって分かり合いたくないもの」 ナイフが発光を始める。あの時のように。同時にナイフを突き立てていた方の朝倉――ええい、面倒くさい。もう朝倉と朝倉(偽)でいいな。気分的に俺を襲ってきた方の朝倉を(偽)ということにしておこう――はナイフを手放して大きく飛び上がり後退した。 音も立てずにふわりと着地すると、そこでやっと朝倉(偽)は笑みを取り戻し、 「でも、本当に勝てると思ってるの? 実権はわたしが握っているのよ。分かるでしょう? この空間はわたしの情報制御下にあるのよ」 「ええ、そうね。でも言ったでしょ? わたしはあなただって。それはあなたも分かってるはずだけど」 だが朝倉は笑みを崩さない。取り戻したはずの笑みを崩したのは朝倉(偽)の方だった。 「!! まさか……」 「残念だったわね。一つ一つのプログラムが甘いから、こういうことになるのよ」 朝倉(偽)の動きが止まる。まるで足を地面に固定されたようだった。 「さて……あいつの動きは止めたし、ちゃんと説明しないとね」 朝倉が俺の方を振り向いた。その顔に浮かんでいたのは安心させるような笑みで、俺はようやく緊張を解いた。 「どういう……ことだ」 「そうねえ、まあだいたいはあなたの考えているとおりなんだけど……」 お前が二人いるなんて考えは頭のどっこにもなかったぜ。 「とりあえずそれについて説明しないとね」 朝倉はもう一人の自分の方に振り返って、 「まず言っておかなきゃならないのは、あれはわたしとは別の存在なんかじゃなく、わたしそのものだってこと」 話の流れから何となくそうかもしれないとは思ったが。……本気か? 「本気よ。わたしがあいつから分離した……っていうのが一番正しいかしらね」 朝倉(偽)は憮然とした面持ちのまま俺たちを見据えている。 「言ってしまえばあいつは統合思念体の急進派、というかその意識そのものと言ってもいいかもね。 そしてわたしは、わたし自身の自意識が生み出した、もう一人のわたし。わたしの方がコピーだっていうのは気に食わないけど」 (偽)をつける方を間違ってたか? だが今更表記を変える気にはならんな。こいつを偽者だというのは何だか忍びない気がする。 「あなたには謝っておかなくちゃ。……ごめんなさい。二度もあなたを殺そうとして」 本当にすまなそうに言う朝倉に俺は意表を突かれた。こいつが俺に対して罪悪感を感じているとは。 いや、それよりも―― 「長門が世界を改変したとき……あれはやっぱりお前だったのか。長門の、バックアップとしての」 「ええ、そう。だいぶ情報操作は受けていたけど。長門さんが再構成したんでしょうね。多分、無意識のうちに」 やはりそうか。あれは、あの朝倉は長門が望んだものだったのか。 と、朝倉は一つ深呼吸して、 「……余裕に見えるかもしれないけど、実はけっこう裏では情報戦で消耗してるのよ。一気に話したいことだけ話すけど、いい?」 「……分かった」 「一度目にあなたを殺そうとしたときね、あれ、急進派に半分操られてたのよ。……言い訳に聞こえるかもしれないけど」 何となくそんなことだろうと思ってたさ。だが、半分ってのは何なんだ。 「わざわざわたしがあんな回りくどいやり方をしたこと、気にならない?」 言われてみれば、妙だ。さっきこいつらもそんなことを言っていた。 「急進派みたいな直接的な行動を好むような意識が、あんな非効率的なことをするわけがないでしょう? あれはわたしがやったの」 朝倉が朝倉(偽)の方を見たのに倣うと、朝倉(偽)は溜息を一つついて、 「まさかあそこまで抑えられるとは思ってなかったわよ。そのせいで殺し損ねちゃった」 「さぞかし残念だったでしょうね。わたしもあそこまでできるとは思ってなかったわ」 朝倉は再び俺の方へ向き直る。 「あなた、あのとき長門さんのことを信用してなかったでしょう?」 「ああ……正直なところはな」 「だから利用したのよ。“わたし”の行動を。わたしがあなたを襲い長門さんに守らせることであなたに長門さんを信用させるために」 不意に節分のときの、鬼の面をつけた長門の姿がフラッシュバックする。 改変された3日間。復活した朝倉。泣いた赤鬼……。 やっぱり、長門だって望んじゃいなかったんだ。仲間を消すなんてことは。 「でも、これは賭けだった。“わたし”にできたのは、あの状況を作り出すことだけだったから。上手くいくかどうかは長門さん次第だったの。あのときの“わたし”は本気だったから。でも、長門さんは上手くやってくれたわ。ちゃんとあなたを守り切った」 長門の話をしていて思い出した。本来なら真っ先に聞いておかなきゃならなかったことだ。 「朝倉、長門……と、喜緑さんは無事なのか?」 朝倉は真剣な表情を微笑に変えて、 「大丈夫よ。大事にはなっていないと思うわ。あくまでも行動を制限されていただけだから。長門さんと喜緑さんがそう簡単にやられると思う?」 「……そうか」 「でも、よかった。ちゃんと長門さんのことを心配してくれてたみたいで」 当たり前だ。あいつの身に何かあったら俺もハルヒも黙っちゃいねえ。 「一つ聞きたいんだけど、それ、長門さんに恩を感じてるからってだけじゃないよね?」 「あいつに恩を感じてるからだとか、ちょっとした同情がないかと言えば嘘になるけどな。そんな卑怯な理由だけであいつを庇ったりはしねえよ。 あいつは俺たちの大事な仲間だからな」 「ふうん」 朝倉は何故か少しだけ不満そうな表情を浮かべていたが、それ以上は追求してこなかった。 「……それで、二度目。長門さんが世界を改変しちゃったときのことだけど。あれにもちゃんと理由があるの」 「ああ」 「急進派のインターフェースである以上、わたしの任務は涼宮さんの変化を促すこと。それはあなたを殺すという行動に集約されていたのよ。そしてあの世界改変のとき、わたしは長門さんでも抑えることのできなかったわたしのインターフェースとしての行動原理によって暴走した」 ……それが、俺を殺そうとした理由か。 「そう……信じてくれるの?」 「信じるさ」 俺は長門の表情すら読める男だぜ。お前くらい表情のはっきりしてる奴が嘘を言ってるかどうかくらい分かる。 「……ありがとね、キョンくん」 思わず朝倉をマジマジと見てしまった。こいつも俺をあだ名で呼ぶのか。俺をあだ名で呼ぶのは俺に心を開いた指標か何かなのかとか、そんなどうでもいいことを考えちまった。 「でも……」 朝倉は朝倉(偽)をきっと見据えた。 「それだけじゃないわ。あいつがあなたを殺そうとした理由」 朝倉(偽)は嫌らしい笑みを浮かべて、 「どういうことかしら?」 「本当はあなた、観測対象のことなんてどうでもよかったんでしょう? そんなに長門さんが羨ましかったの?」 「あら、あなただってそれは同じじゃない? “あなた”は“わたし”なんでしょう?」 「確かにそうだけど……わたしはそんなこと望んでないわ」 「どうかしらね」 そこまで言って朝倉(偽)はふっと鼻で笑った。 「朝倉、どういうことだ?」 「さっき言ったでしょう? あれは急進派の意識に限りなく近いの。……急進派は主流派に対して憤りを感じていたのよ。変化を待つばかりでは、何も変わらない。だからわたしを操ってあなたを殺そうとした。でも、“わたし”も急進派と同じように、主流派のインターフェースである長門さんに……そうね、嫉妬とでも言ったらいいのかしら。とにかくそういうものを感じていたのよ。涼宮さんと彼女にとっての鍵であるあなたに選ばれた、長門さんにね。だから、“わたし”はあなたを殺すことで自分の欲求を満たそうとした」 二人の朝倉の視線が再びぶつかる。 「あなたが望んでいたのは変化でも、任務の達成でもない。長門さんが絶望する姿よ。違う?」 朝倉(偽)は口元を更に歪ませて、 「ばれちゃった?」 「そんなにバックアップって役割が嫌だった?」 「ええ、窮屈な立場だったわ。観測対象の変化を促したいのに、自分一人では何の行動も起こせないんだもの。長門さんは自分から行動を起こそうとしないし」 「ふざけないでよ」 朝倉の眼光が更に鋭くなる。が、朝倉(偽)は笑みを崩さずに、 「ふざけてるのはあなたじゃない。いったい何に毒されればそんなふうになれるの? 長門さん? それとも彼?」 「黙りなさい」 朝倉が右腕を伸ばし手を広げると、光の粒子が集まり朝倉(偽)のもと同じナイフが現れた。 「もう終わりにするわ。時間もあまり残されていないし。統合思念体によろしく言っておいてくれる?」 朝倉はナイフを朝倉(偽)へと向ける。だが朝倉(偽)の笑みは消えない。 「……ねえ、わたしが何の対策もしていなかったと思う?」 「何のこと?」 「あのときの長門さんと同じ。まあ立場は逆だけれど。わたしがこの空間に崩壊因子を埋め込んでいなかったって、あなた証明できる?」 「……!! まさか、そんな……」 朝倉(偽)の言葉に今度は朝倉がたじろいだ。何だ、いったい? 「わたしが今回再構成されたのは、彼を殺すため。ただそれだけよ。別にわたしは有機生命体としての生活に未練なんてないし、任務が終わればこの肉体は用済み。彼を情報制御空間にさえ誘い込めれば、後は丸ごと全部情報連結を解除してしまえばいいだけのこと。 わたしがそうする可能性、まさか思いつかなかったの?」 「そんな、だって……」 「爪が甘かったわね。そんなだから長門さんに指摘されるのよ」 朝倉(偽)の不敵な笑みに朝倉はわずかに下唇を噛んだ。ナイフを握る手が震える。 「どちらにしても、彼がこの空間に入り込んでしまった以上、わたしの勝ちは決定していたってこと。わたしを消したいのなら、どうぞ。好きにするといいわ。“わたし”は統合思念体の構成情報に戻るだけだし」 朝倉(偽)は腕を広げここぞとばかりに微笑んだ。朝倉はナイフを握ったままもう一人の自分を鋭い目つきで睨んでいる。 だが、俺はと言えば妙な違和感を覚えていた。今こうして笑っている朝倉(偽)と、さっきまで狼狽していたこいつがどうしても重ならない。 そもそもやり方が回りくどすぎる。俺を教室に誘い込んだのは朝倉の手回しなのは分かるとして、そんな手があるなら最初から連結の解除とやらをしておけばよかったんじゃないのか? それとも、朝倉の狼狽する姿を見るためにあえて待っていた? それもおかしい。こいつが統合思念体の一部だってんなら、事が終わってからいくらでもほくそ笑むことだってできるんじゃないのか? もしかしたら―― 「どうしたの? やっぱり怖い? 死ぬのがさ。『死』なんて有機生命体の一概念に過ぎないじゃない。馬鹿らしい」 こいつもどこかで、朝倉と同じことを望んでいるんじゃないのか? 分離し切れなかった2つの意識が、心の片隅でせめぎ合いをしているんじゃないだろうか。 そんなことを考えながら俺の頭はやけに冷静だった。 まるで―― 俺たちがちゃんとこの空間を脱出できるという確信があるかのように。 俺はナイフを握ったまま震える朝倉の手を握った。朝倉の体が震え、ゆっくりとこちらを振り向く。 「心配すんな朝倉。大丈夫だ」 「え……?」 「いいじゃねえか。どっちにしたってあいつを倒さない限りは終わらないんだろう? それに、あいつの言ってることが本当だって証拠もない。罠でもいい。堂々と踏んでやろうじゃねえか。俺はもう踏んじまってるしな。今更どうってこたねえよ」 「でも……」 朝倉が不安げな顔で俺を見つめる。 よせよ。そんな顔はお前には似合わねえぜ。いつも明るい人気者で頼れるクラスの委員長。それがお前だろ? 「いいか朝倉。俺はお前を信じる。だからお前も信じろ。きっと大丈夫だ」 俺は朝倉(偽)の方を見て、口元を歪めてみせた。朝倉(偽)は口元こそ笑みを形作りながらも、面白くなさそうに眉をひそめた。 「宇宙のどこかにいる情報意識体とやらに喧嘩を売るのも悪くない。ハルヒが喜びそうな話だぜ。敵は急進派だけなんだろう? 何かあったら他の派閥が何とかしてくれるんじゃねえか。それに、俺が死んだりしたらハルヒも長門も、古泉や朝比奈さんだって黙っちゃいないだろうさ。っていうか死ぬ気がしねえ。何だかよく分からんけどな。ちゃんと生きて帰れる気がするんだよ。俺も、お前も」 朝倉の不安はまだ消えていない。俺は言葉を続ける。 「だから、やっちまえ。どうなろうと知ったことか。あっさり罠にかかっちまった俺が悪いんだ。お前は悪くない。 俺にできることなんか何にもねえけどな。それでもお前を見届けてやることくらいはできるぜ」 そこまで言って手を離すと朝倉は俯いたまま呟いた。 「……ありがとう」 きっと朝倉は顔を上げる。強い決意を秘めた輝きを放つ、真っ直ぐな瞳で目の前のもう一人の自分を見据えた。そして、 「さよなら、死んで!」 強い踏み込みで朝倉(偽)に飛び掛り、その胸にナイフを突き立てた。朝倉(偽)は抵抗しない。いや、できなかったのか。 ナイフのぶつかる鈍い音と共に朝倉(偽)の胸から鮮血が滴り落ちる。 「……あなたも所詮長門さんと同じね。そんなに操り主のことが嫌い?」 朝倉(偽)は血を吐きながら嘲るような笑みを浮かべ朝倉を見た。 「ええ、そうね。長門さんと同じで構わないわ。統合思念体は……まあ、作ってくれたことには感謝しているけれど」 もう一人の自分にナイフを突き刺したまま、朝倉は強い口調で続ける。 「でも、わたしの自意識はわたしのものだわ。誰の好きにもさせない。キョンくんも……」 そこまで言って朝倉は俺の方を振り向く。何もかも吹っ切れたような、そんなさっぱりとした微笑を浮かべていた。 「……今度はわたしが守る番だわ。だって――」 朝倉(偽)に向き直ると、朝倉は突き立てたナイフを思いっ切り抜き取った。血飛沫が飛び朝倉(偽)が体勢を大きく崩す。 「だってわたしは、長門さんのバックアップだもの」 瞬間、朝倉(偽)の体が発光を始める。過去二回見た情報連結解除とやらと同じように足元から光の粒となって消えていく。 「ふうん……やっぱりあなたもそっちを選ぶんだ?」 朝倉(偽)の嘲笑は消えない。それどころか、哀れむような色さえ浮かべていた。 「まあいいけどね。どちらにしてもわたしには関係のないことだわ。本当に……」 朝倉(偽)が一瞬俺の方を見る。あの長門が改変した世界で見た殺人鬼朝倉のものと同じ笑み。 「急進派のインターフェースが聞いて呆れるわね」 「“わたし”は本当におしゃべりが好きね」 もう一人の自分の言葉を黙って聞いていた朝倉がようやく口を開く。 「でももうわたしは急進派のインターフェースなんかじゃないわ。もちろん、主流派のものでも、穏健派のものでもない」 清々しい声で朝倉は言う。目の前にいる自分と、そして自分自身に言い聞かせるように。 「わたしが辿るのは長門さんと同じ道。喜緑さんには迷惑をかけるかもしれないけれど……」 揺るぎのない真っ直ぐな声。朝比奈さん(大)のお使いをこなしていたあの八日間の長門の言葉が思い出される。 「それでもわたしは“わたし”を許すつもりはないわ。操られていたのだとしても、暴走していたのだとしても、やったことに変わりはないもの」 そこまで言うと朝倉は俺の方を振り向く。 「全ての償いができるとは思っていない。でも、キョンくんが認めてくれた。だから、わたしは生きるの」 「付き合いきれないわね」 朝倉(偽)はもう首まで消えかけていた。そう言って諦めたように首を振ると朝倉(偽)はいつかのように笑いながら、 「もし生きて帰れたら、長門さんたちとお幸せに。じゃあね」 そうして、朝倉(偽)は完全に消失した。 「よくやった、朝倉」 気が付けば本物の朝倉も脚が消え始めていた。そして、俺も。 だが慌てることはない。想定の範囲内さ。 「ねえ、キョンくん……」 「何だ」 朝倉が振り向く。不安げな瞳が俺を見つめる。 「本当にこれで……よかったのかしら?」 「いいのさ」 俺はいつか長門にしてやったように励ますような笑みを浮かべて言った。 「どの道これしか方法はなかったんだ。お前だって、このクソ忌々しい空間にずっと閉じ込められてるくらいだったらいっそ消えちまった方がいいだろ? 俺は嫌だね。好きじゃないんだよ、こういう『閉鎖空間』はな」 朝倉は一瞬きょとんとした顔になった後ふっと小さく笑って、 「そうかな……わたしは、キョンくんがいてくれたらそれでいいけど」 下手な冗談言うじゃねえよ。長門に会いたいんだろ? 俺は会いたいね。もちろん、ハルヒと朝比奈さんと、ついでに古泉ともな。 「そうね……。まずは、会って謝らなくちゃ」 俺たちの体は既に胸の辺りまで消えていた。 もうすぐ俺たちは完全に消失する。『この世界』から。 もしかしたら本当にこれが最期かもしれん。向こうの世界に帰れる保証もない。 だが俺は確信していた。これは終わりなんかじゃない。俺たちはきっと、元の世界に帰れる。 そして、朝倉にとってはこれが始まりなんだ。こいつは生まれ変わった。 「朝倉!」 もう首まで光の粒になっている。消えちまう前に言っておかなきゃならないことがある。 「また明日な!!」 明日会えるかどうかなんて知ったこっちゃない。だけど――クラスメイトと分かれる時は、普通こう言うもんだろ? 朝倉が微笑む。細めたその目から、一筋の涙が零れ落ちた。 「また……明日……!!」 視界が白くなる。意識が遠のく。 まるで――世界が光に包まれたようだった。 「…………」 目を開けた途端にオレンジ色の光が差し込んできて、俺は思わず目を細める。 目をゆっくりと開けて窓の外に目をやると黄昏が空に広がっていた。 辺りを見回すと、間違いない、ここは俺のクラスの教室で、俺は自分の席に座って眠っていたようだ。 ……いや、違う。 夕暮れの教室に立っていた消えたはずの朝倉。いつかと同じ極彩色の空間。そして俺を救ったもう一人の朝倉。 その全てが鮮明に脳裏に蘇ってきた。 俺は戻ってきたのだ。あの空間から。 「朝倉!」 立ち上がって朝倉の名を叫ぶ。返事はない。 俺だけが、あの空間から脱出できたのか……。 いや、違う。そんなはずはない。そんなことがあってたまるか。 絶対にあいつは戻ってくる。そしてまた俺たちのクラスにやってきてクラスメイトたちの歓声を浴びるんだ。 必ずまた会える。約束したんだ。また明日――俺たちは、普通のクラスメイトとして。 だから帰ろう。帰ってさっさと飯食って寝て――と、その前に長門と喜緑さんの無事を確認しとくのも忘れちゃいけないな――、明日朝早くに起きてこの教室に一番乗りしてやる。 あいつはきっと――待っていてくれるはずだ。 俺はいつものように学校へと続く坂をえっちらおっちらと登っていた。 いつもと違うのは、この道を歩いてる時間がいつもの1時間以上早く、他に歩いてるような奴が誰もいないってことだ。 目的はただ一つ。教室に一番乗りするために。 いや、違うな。きっと俺より先に来て、俺を待っている奴がいるはずだ。 自然と早足になり、いつもより早く坂を登りきった俺は昇降口で靴を履き替え、ついに駆け足となって階段を1段飛ばしで駆け上がる。 少しでも早く、あいつに会いに行くために。 きっとクラスの連中は驚くだろう。一年前にカナダに転校したはずのクラスメイトが、突然戻ってくるんだ。そりゃあ大騒ぎに違いない。 ハルヒは間違いなく目をつけるだろうし、あわよくばSOS団に引っ張りこんじまうかもしれない。 万が一そうでなかったとしても俺がハルヒに口聞きしてやったっていいし、長門も許してくれるだろう。 誰もあいつを拒みはしない。誰もがあいつを笑って迎え入れるだろう。俺でさえ、その準備が整ってるんだからな。 階段を登り廊下を走って自分のクラスの戸の前まで来ると一つ深呼吸をして乱れた呼吸を整える。 希望と確信の入り混じった心持ちで俺は戸を勢いよく開いた。 「……よお」 窓際に立って校庭を眺めていたそいつは、俺の声に気付き長い髪を揺らしてゆっくりと振り向くと俺の姿を見て微笑む。 次に聞こえてくるであろう言葉を俺は何となく分かっていた。だから先に心の中でつっこんでおこう。 お前はいつから、そこにいたんだ? 屈託のない明るい少女の笑みを浮かべてそいつは言った。 「遅いよ……罰金、かな?」